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水屋・水塚 水防の知恵と住まい

LIXILギャラリー企画委員会企画 LIXIL出版 刊 本体1,800円

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同名の展覧会に併せて刊行された本で、日本の伝統的な水防の知恵である「水屋・水塚」を伝えている。

日本の河川は短く急峻なため、洪水災害がしょっ中起こる。いったん浸水すると、1週間ときには1カ月たっても水が引かないことがあるそうだ。しかし、川辺の土地は洪水によって豊かな耕作地にもなる。豊穣と水害の脅威は表裏一体なのである。かつて人々は、水に対する心構えとして「減勢治水」とし、「柔よく剛を制す」と考えてきた。高いコンクリートの堤防を築いて水害を防ぐのではなく、水があふれたときにあわてないように準備しておき、被害を少なくようと考えたのだ。そこから生まれたのが、水屋・水塚である。

簡単にいえば水屋・水塚は、水害から命や財産を守るために敷地内に盛土などして建てた避難小屋のことである。この本では、北関東の利根川から大分県の大野川までの13の河川流域にある水屋・水塚が紹介されている。盛土は、1m弱のものから5mを超えるものまでさまざまで、みごとな石垣を積み上げたり、小高い丘だったり、木々を植えたものもある。小屋は漆喰壁、石積み、土壁を板張りで覆ったものなどがあり、避難所で貯蔵庫でもあることから、土間の天井には舟が吊り下げられているものもある。それぞれの地域の気候や材料に合わせてつくられた水屋・水塚は、本来の意味を知らなくても美しい。その土地らしい景観をつくりだしている。

しかし残念ながら、こうした昔ながらの生活の知恵は、どんどん忘れられているのが現状である。東京大学名誉教授の髙橋裕は次のように言っている。

「堤防が立派になると、つい、それに頼り切ってしまう。すべてお役所任せにしてしまう。そうすると、これまでに蓄積されてきた住民の知恵や貴重な災害文化までが受け継がれなくなってしまいます。いざという時に自分の身を守る術は決して忘れてはいけません」

そのためにも、川をよく見ること、観察することをすすめている。日本大学理工学部教授の畔柳昭雄の研究による「水屋が語る生きる知恵」もコツコツ調べた貴重な記録である。