今号の取材が始まったころ、子どもの頃に読んだ『日本のおばけ話』(童心社)を益子の古道具店でみつけ、懐かしくなって求めた。すっかり忘れていたのだが、そこには今号にヒントを与えてくれるような「おぼさりてえ」というおばけの話が載っていた。

「おぼさりてえ」は、神社の奥にある木の上に住んでいて、人の背中におぶさってくるおばけである。ある夜、ひとりのお侍がその正体をたしかめることになる。彼は神社へ行っておばけにおぶさるよう促し、たいへんな思いをして家まで連れて帰る。そして土間で「降りろ」というのだけれど降りない。板の間で「降りろ」というけれど降りない。座敷でも降りず、床の間でやっとするすると降りた。翌朝、見てみると床の間にはなんと! 煌めく大判小判が積まれていたのだった……。

勇気を称える、知らないものをむやみに避けるな、など、いろんな意味を含んだ話だと思われるが、ここには日本の家の構造とその意味合いも見てとれる。空間にヒエラルキーがあって、もっとも床が高く神聖な場所が「床の間」だということだ。この空間意識は身分の差、上下関係や行儀作法とも関わったから、封建的で窮屈なルールでもあったのだろう。戦後、日本の家は和室を捨て、家の中は均質になっていった。
でも、ここまで住宅の空間がニュートラルになってしまったいま、和室や空間のヒエラルキーに注目するのもおもしろいのではないだろうか。何も昔のまま和室や床の間をつくらなくてもよい。歴史的に見ても床の間はさまざまに変化し、多様な表現がされてきたものなのだ(今号の「和室の図鑑 真行草」ご参照ください)。いくらでも応用が可能である。
それにほら、「おぼさりてえ」を連れて帰ったとき、床の間があった方がよいでしょう?

(編集・多田君枝)