今号(145号)でご紹介した「夜咄Sahan(よばなしさはん)」は、小間で立礼式という、新しい試みがなされた茶室ですが、床の間も独特です。写真/淺川敏

20150730_resize_29G5800

小間は簡素につくるので、床の間も掛け軸をかける空間のみ、というのが一般的です。もちろん例外はあって、その代表は大徳寺塔頭の龍光院密庵(りゅうこういんみったん)といえるでしょう。ここはプランも特殊です。四畳半台目に床がふたつあり、一方は「密庵」の墨蹟を掛けるための床で角の床柱が立てられています。もう一方には床とはL型になるように棚と天袋、地袋が付設されているのです。長押(なげし)もまわっており、腰高障子の貴人口、張付壁でそこに絵が描かれているなど、全体に書院建築の趣を醸しています。

「夜咄Sahan」も三畳中板に二畳の相伴席を付した小間でありながら床脇があります。端正な違い棚に、裂地を貼りまわした小襖をたてた天袋。床前の格天井とともに格式のある構えです。しかし材料は小間らしく丸太を多用しています。このうち注目したいのは床柱です。小間の茶室における床柱の定番は、表千家「不審菴」でも立てられている赤松皮付丸太。ところが「夜咄Sahan」は令母(りょうぶ)の皮付です。肌合いは赤松に似ていますが、色はピンク色。赤松に比べて穏やかで上品な佇まいです。これによって、床脇を備え、ともすれば厳格になりがちな床の間にやさしさがもたらされているのです。

余談ですが、「夜咄Sahan」の材料でもっとも驚いたのは、中板の脇に立てられた柱です。北山杉天然絞(絞は生長過程で自然に木の表面につくシワで、稀少なものです)なのですが、その絞の繊細なこと! そして径の小ささ! この柱の存在も「夜咄Sahan」を格別な茶室にしていました。(編集・阪口公子)




特集を探す

Twitter