茶道宗和流十八代の宇田川宗光さんが、気軽に茶事を体験できる場としてオープンさせた「夜咄Sahan」(設計/POINT)。
ここでの茶事を145号のために取材した時に、主菓子となったのが「鴉笑(あしょう)」と名付けられた黒いキントンだった。「鴉」はカラスのこと。黒=玄は悟りの境地を表す。

宇田川さんは、「一休禅師がお悟りを開いたときに、その心境を託した投機の偈(とうきのげ・悟りの詩)があります。

十年以前識情心
瞋恚豪機在即今
鴉笑出塵羅漢果
昭陽日影玉顔吟

その一節から名前をいただきました」と話す。

<大意>この十年ほど、迷いから抜けられなかった。そして怒りや傲慢も捨てきれずに今日に至ってしまった。しかし世俗を離れて羅漢(悟りをひらいた高僧)の境地に入ってみれば、鴉も心なしか笑っている。朝日を受けてうるわしい今、詩を吟じる。

「鴉」と宇田川さんの結びつきは濃い。宇田川さんは、2015年の2月28日に、大徳寺真珠庵の山田宗正和尚より「寒鴉齋」という齋號を授與され、仏弟子となった(写真は真珠庵の方丈での授與式の様子・撮影/淺川敏 協力/大徳寺真珠庵)。一休禅師は明け方になく鴉の声で悟りの境地に達したといわれ、『狂雲集』にも「寒鴉」という語が登場する。出家して寒鴉齋を名のる宇田川さんは、真珠庵の二畳台目茶室「庭玉軒」を忠実に写した茶室「凍玉軒」を東京・落合に営んでいる。庭玉軒、凍玉軒、どちらも雪、氷を意味し、冬に縁がある。寒鴉もしかり。

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黒文字で「鴉笑」を割ると、黒、白、赤、と3層になっているのがわかる(写真・撮影/淺川敏)。白い求肥で赤い餡を包んで、黒糖餡のキントンをまとわせたものだ。黒とあざやかな赤という意外性。「鴉が口をあけて笑っているイメージ」と宇田川さんは朗らかに笑った。

黒いキントンの秘密

(編集・阪口公子)