優れた古歌の一部を引用し、作歌する和歌の技法「本歌取り」を独自の解釈で表現した、現代美術作家の杉本博司(1948-)の個展が、姫路市立美術館にて9月17日より開催される。
杉本はかつて、自身の作家活動の原点とも言える写真技法を、和歌の伝統技法である本歌取りと比較し、「本歌取り論」を展開した。この中で杉本は、日本文化の伝統は旧世代の時代精神を本歌取りすること、つまり、古い時代の感性や精神を受け継ぎつつ、そこに新たな感性を加えることで育まれてきたものであろうと述べている。さらには、日本だけでなく世界中の文化に本歌を求め、自身の創作においても本歌取りを試みたいとも記している。
杉本は本展で、自身の表現領域の拡大に伴い、写真技法のみに留まらない更なる「本歌取り論」の展開を試みる。時間の性質や人間の知覚、意識の起源といった、杉本が長年追求してきたテーマを内包しながら、千利休の「見立て」やマルセル・デュシャンの「レディメイド」を参照しつつ、独自の解釈を加え、新たな本歌取りの世界を構築する。
杉本博司 《天橋立図屏風》 2022年 ©Hiroshi Sugimoto
この新たな本歌取りを表現すべく、初公開となる屏風仕立ての写真作品《天橋立図屏風》とその発想の源泉となった、頴川美術館旧蔵の《三保松原図》(兵庫県立美術館蔵)や、春日大社に関わりのある《金銅春日神鹿御正体》(細見美術館蔵)と、それを本歌とした《春日神鹿像》など、杉本作品と共に、その本歌となったさまざまな作品が展示される。
左:重要文化財 《金銅春日神鹿御正体》 南北朝時代(14世紀) 細見美術館
右:《春日神鹿像》 室町時代 海景五輪塔:杉本博司 鞍、蓮台補作:須田悦弘 小田原文化財団
また、尾形光琳の《紅白梅図屏風》を本歌とする杉本の作品《月下紅白梅図》や、彼の代名詞ともいえる大判の写真作品をはじめとする、作家の代表作に加えて、姫路城を撮影して屏風に仕立てた《姫路城図》、書寫山圓教寺所蔵の《性空上人坐像》を本歌とした写真作品《性空上人像》といった、姫路の文化財に触発されて杉本が制作した新作を通して、「本歌取り論」を提唱する以前から現在に至るまで、杉本作品の底流には常に本歌取りの概念が存在していることを紐解いてゆく。
杉本博司 《月下紅白梅図》 2014年 ©Hiroshi Sugimoto
会期中は、本展に関連した美術作品に詳しい専門家を招いての講演会や、杉本博司の映像作品上映会などが各種開催される(開催内容の詳細は、姫路市立美術館ホームページを参照)。
なお、本展は、姫路の魅力を国内外に発信する「オールひめじ・アーツ&ライフ・プロジェクト」の一環として開催される。杉本博司は、令和4年度の招聘作家である。
informtion
「杉本博司 本歌取り —日本文化の伝承と飛翔」
会期:2022年9月17日(土)〜2022年11月6日(日) ※会期中、展示替えあり
前期展示:9月17日(土)〜10月10日(月・祝)
後期展示:10月12日(水)〜11月6日(日)
開館時間:10:00-17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜(但し、9月19日、10月10日は開館)、9月20日(火)、10月11日(火)
会場:姫路市立美術館 企画展示室(兵庫県姫路市本町68-25)
当日観覧料:一般 1200円、大学・高校生600円、中学・小学生200円
※同展入場券で常設展示室もの観覧可
協力:東京大学大学院人文社会系研究科・文学部美術史研究室、兵庫県立歴史博物館、公益財団法人小田原文化財団、ギャラリー小柳、新素材研究所、杉本スタジオ
姫路市立美術館 ホームページ
https://www.city.himeji.lg.jp/art/
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