40周年を迎えた専門誌『庭』と、庭づくりをめぐる2冊の本

評・中野照子(編集者)

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左から『庭』2016年冬号、『現代ニッポンの庭 百人百庭』、『庭暮らしのススメ 失敗しない庭づくり』(いずれも 建築資料研究社刊 )

 

造園の専門誌『庭』が創刊40周年を迎え、2016年冬に記念・特大号が発行された。これまでガーデニングがブームになると庭の雑誌が何冊も登場したが、造園の専門誌としてここまで長く続いた専門誌は他にない。それは何故だろうか。あとで紹介するこの号の前後に出版された2冊の本と合わせてみるとよくわかる。

まずは、40周年を迎えた専門誌『庭』である。実例や技術を紹介しているのは当然だが、その根底に流れているものがある。雑誌の前身である『別冊 庭』の初代編集長である龍居竹之介は「庭は人なり」と言い、「庭はつくらせる人、つくる人の手から生まれる」と語っている。その思いをつないできて40年、この号では「昭和という時代の造園家」と題して龍居と重森三玲の孫である重森千靑の対談を掲載、「現代庭園の礎を築いた 昭和を彩る作庭家・造園家の群像」を特集して、雑誌のサブタイトルでもある「庭の未来へ」と導いている。

後者の記事は、造園史家で東京農業大学准教授の粟野 隆の協力のもと、充実した内容になっている。ここでは近代と現代をつなぐ激動の時代・昭和を生きた造園作家を4つのグループに分けた。「明示・大正期の庭園様式を継承しつつ現代へと発展させた」雑木の庭の飯田十基や庭匠・岩城亘太郎など、「全国的な公園整備によって、庭園理論を構築し実践した」椎原兵市や田村 剛など、「造形的、構成的な庭園デザインを展開した」深谷光軌、重森三玲、堀口捨己、「大衆のための生活の庭を重視し、多様な展開を図った」東京高等造園学校の卒業生などである。40年にわたる取材の成果であろう、いずれも資料性の高い美しい写真とともに紹介されている。

40周年記念号で現代に至る造園の歴史や奥深い考え方などを理解したところで、『現代ニッポンの庭 百人百庭』を読む。ここでは現代の暮らしのなかで息づいている実例が紹介されている。つくったのは主に戦後に生まれて活躍している全国の若い作庭家・造園家100人である。昔ながらの伝統を受け継ぐ人、自然に耳をすます人、創造的な世界を大切にする人、さまざまな庭の取り組みがある。『庭』の前編集長で、この本をまとめた豊藏 均は「100人選ぶのはたいへんだった」と語っているが、こうして並べてみると、和でも洋でもないさまざまな建築様式や暮らし方に一体化する「新しい日本の庭」が登場してきていることがわかる。本誌に登場した時代とはあきらかに変化してきているのである。いずれも可能性を感じさせる庭ばかり。良質のガイドブックになっている。

さらに豊藏は『庭暮らしのススメ 失敗しない庭づくり』でそのエッセンスを具体的に抽出して並び替え、「つくる人」である若い作庭家・造園家や「つくらせる人」である住まい手への良質な入門書にまとめている。「水から始まる庭暮らし」に始まり、木かげ、石積み、土、道具と続き、「庭を育み守る」まで楽しい実用書となっており、「庭を楽しみたい」という気持ちに語りかける。手元に置きたい本である。こうした流れをみていると、雑誌としての守破離とはこれなのかとも思う。

庭は住宅以上に育てることが重要になる。時間もかかるし、失敗もする。それだけに四季折々のこまやかな変化も心に響くのだろう。コツコツ続けることを基本とする庭づくりは、この専門誌の姿勢に通じるものがあると気づかされた。

 

 

 

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