「チェルサイエ2023」レポート(イタリア・ボローニャ)

コンフォルト195号より抜粋・一部改変

取材・文・写真(*をのぞく)/北原孝一(建築資料研究社出版部)
協力/イタリア大使館貿易促進部 取材協力/アークテック、リビエラ、KMJ

 

イノベーティブなタイルが集結—— CERSAIE 2023


左は展示会場入口。2023年9月25日~29日の5日間、15ホール、145,000㎡の会場に634の企業が出展した(うち39%がイタリア以外の27カ国)。日本のタイルメーカーでは唯一、TNコーポレーションが参加した。2024年は9月23日~27日の5日間開催予定。https://www.cersaie.it

 

イタリア北部エミリア・ロマーニャ州モデナ県サッスオーロ市と隣のレッジョエミリア県は、イタリア最大のタイル生産地である。州都ボローニャは、サッスオーロ市から車で1時間あまり。ボローニャ中央駅北側の市街地にある大規模見本市会場では例年9月末に、セラミックタイルの国際見本市「CERSAIE(チェルサイエ)」が開催されている。2023年は節目となる40回目で、タイルをはじめ、関連の釉薬、目地材、接着剤、施工道具、工作機械など製造に関わる製品、さらに洗面、浴室など水まわり製品が出展されていた。タイルに関する数々のセミナー、施工の講習会、若手タイル職人の施工コンテストなど、製品の提案だけでなく学びの機会もあり、まさに「タイルの祭典」といっても良い展示会だ。

 


テラコッタ色やナチュラルなトーンはトレンドのひとつ。大判タイルに細かなリブを施したCOEM社「Moiré」。部分的にリブの色と太さを変えてモアレのような波形を表現。見る角度によって表情が変化する。(*)

 


Decoratori Bassanesi社「Lofoten」。正面からは縦に細長いタイルを並べて張っているように見えるが、じつは断面はのこぎり波状で、目地に見える縦のラインは影。デザイナーのフェデリカ・ビアシは、ノルウェーのロフォーテン諸島の港町にあるカラフルな木造の漁師小屋からインスピレーションを受けてデザインしたという。6色ある。(*)

 


壁面のタイルはRagno社「Stratford」シリーズのクレイ色。3D技術によってコテで荒らした左官のような表情を出している。(*)

 


床壁共にITALGRANITI社「Dorset」シリーズ。壁面に半円を象ったタイルが張られている。円の内側は浅く窪み、円の外側は細かなリブ状で、やきものだということを忘れるようなソフトな手ざわり。テーブルの脚部もタイル張り。(*)

 

筆者にとっては18年ぶりの訪問。会場を見渡し、まず感じた変化は企業の統合化だった。材料の共同購入によるコスト減や経営資源の有効活用などを目的に進められたようだが、ここ10年来は大判タイルの製造が大きな鍵となったように思われる。その大判タイルは、3Dプリントとデジタルインクジェット技術を同調させる最新技術によって、木材や石材の表現がさらに進化していた。自然素材ならではの細かい凹凸に色の濃淡が適切に印刷されており、一見、やきものとは思えないくらいだった。

 


大胆な幾何学バターンも各社が提案。写真は、5CERAMICA Fioranese社「Unica Deco Macro」Misty Rose色。オニキス柄は多く出展されており、今後は自然石がタイルに取って替わられるのでは?

 


Atlas Concorde社のブース入口でひと際目を引いたZaha Hadid Architectsデザインのモザイクタイル「Diamond」。ダイヤモンドの光の屈折を2次元で表現し、錯覚を誘う。(*)

 


FINCIBECグループのNAXOS社。「BOLD」シリーズのModulo Arabesque Supreme色。日本では人気継続中のランタン形のような紋様で、釉薬の窯変を上手く採り入れている。

 


Mirage社「GLOCAL」の新作。元は無地だったが、イタリアデザイン界を牽引するジュリオ・カッペリーニがトレンド色を用いて再構築した。(*)

 

陶器質のタイルに比べ、低吸水率で用途が広い磁器質タイルにも変化が見られた。発色の良さ、釉薬による変化、しっとりとした表面といった陶器質タイル独特の表現が磁器質タイルでも実現。湿度が高くカビの発生に注意が必要な場所や、寒冷地での凍害の恐れがあるような場所でも今後、やきものらしい表情のタイルが楽しめるようになりそうだ。
張り方においては、長方形タイルを縦張りした展示が多かった。海外の見本市で、縦格子状にデザインした収納やカウンターの面材、縦のラインを綺麗に見せるプリーツカーテンなどが流行っている影響だろうか。丸みのある壁面や洗面台、テーブル脚部など、これまでタイルが張られていなかった場所にも使用されていた。ベルベットのようなマット仕上げも登場し、触感にも訴える技術が今後の展開の新境地になりそうだ。

ものづくりにおいて技術の進歩は必要なファクターだ。進歩のベクトルが機能に偏りがちな昨今だが、イタリアのタイル業界は「美しさ」の追求も忘れていない。多くの来場者が笑顔と驚きの表情で、指先ではなく手のひらで撫でるように製品を触って確かめている姿がその証だろう。
さて、来年はどんな進化を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。

 


3Dプリントとインクジェット技術が同調し、艶とマット、細かな凹凸に応じた色の濃淡などの表現が各社とも飛躍的に進化。木や石の柄のタイルは以前から見られたが、表現がよりリアルになっていた。これは、Sant’Agostino社「YORKWOOD」。オーク材天然木の節、樹皮痕、斑点模様などを繊細に表現。光の反射やマットな様子も本物に近い。

 


ImoraグループのLa Faenza社、「Cocoon」シリーズの「Travertino」。

 

GRANITI FIANDRE社SAPIENSTONE。上は「Calacatta4D」、下は「Calacatta Macchia Vecchia 4D」。タイルの大判化×薄型化が進む一方、石材を思わせる厚みのあるタイルが登場してきた。IRISグループのブースでは、12㎜厚、20㎜厚で、小口にも模様があるタイルがカウンター、テーブル、ベンチなどに使用されていた。ワイヤレス充電、タッチセンサーが組み込まれたものも。(*)

 


Atlas Concorde社では12㎜厚のタイルを天板に使ったテーブルを製品として展示。写真は小口を削り込んだダイニングテーブル「Blooklyn75」。

 


住空間におけるタイルの使い方を提案したITALGRANITI社の洗面スペース。縦張りによる丸みのある壁や円柱はほかでも多く見られた。最近のトレンドの一つ、フルーティング(縦の溝)装飾の影響か?

 


100×100㎜のモザイクタイル、Sant’Agostino社「DUO PIXEL」。焼成で釉薬が溶けてガラス化したクラフト感ある伝統的な陶器質のタイル、かと思いきや磁器質のタイル。

 

今年は各社からマットな仕上げが多く追加されたが、このREFIN社「CERA」は格別。奥行き感のあるソフトな表情で、古い建築に見る大理石のようなシルキーな手触り。

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