大きなたらい型のカラフルなソファ。ポップなブルーのハンガーや鏡。
あ、いいな、と惹き付けられて、次の段階で気付く。
なにやら、素材に仕掛けがありそうだ……。
2019年11月20日〜22日、東京ビッグサイトで開かれた「IFFT interiorlifestyle living」の特別展示として、「アップサイクルって何?」が開かれた。
アップサイクルとは近年、注目されている言葉、概念である。
同展のディレクターを務めた建築家の芦沢啓治さんは、21日に行われた長谷川哲士さんとのトークの冒頭で、「アップサイクルは、これからのデザイナーにとって重要」と語った。
廃棄物を原料や燃料として再利用する「リサイクル」は、メーカーの技術開発や流通の仕組みと切り離せない。所有者を変えて繰り返し使う「リユース」は、ユーザー側の行動にかかっている。
これに対し、元の何かを改変させて魅力あるものを生み出す「アップサイクル」では、新たな視点、見方、感性やアイデア、クリエイティヴィティが必要となる。デザイナーが主体的に取り組める分野であり、より普遍化されていくことが求められているのだ。
具体的に展示物を見てみよう。
トラフ建築設計事務所、鈴野浩一さん、禿真哉さんの「もこもこソファ」の原点は、ポリエチレン発泡体のメーカー、「三和化工」の工場の裏にあった。そこに、製造時に出る端材が大量に積まれていたのである。ゴミになる運命のその断面を、彼らは「美しい」と感じたという。その視点が、これまでにないソファにつながった。会場では早速、「ほしい」という話が寄せられたそうだ。
冒頭の「ハンガーや鏡」は、プラレールが材料だ。minnaの角田真祐子さんと長谷川哲士さんは、「アップサイクル」を「ひとりひとりの思いや思い出を次の段階へとつなぐこと、ものを大切にすること」だと考えたという。そこで4歳の息子さんのプラレールに着目した。いまは夢中になって遊んでいるが、遠からず不要になる日が来る。そのときに使えるものになったら、という発想だった。最初は自分のおもちゃを取り上げられて不満げだった息子さんだが、できあがったものを見て、「頭が刺激されたのか、おもしろがっていた」と長谷川さんはいう。
福井県の越前漆器のベースとなる箱物木地のメーカーと協働したのが、MUTEのイトウケンジさん。その工場には、使われないままの木地が眠っていたのだという。黒や朱など漆らしい色で仕上げるのが旧来のやり方だが、イトウさんは白やブルーなどの鮮やかな色で塗ってもらった。それによって器は新たな用途を感じさせることになった。「並べ方も大事ですね、こうして比較することによって、伝統的なものもいいなと思えるようになる」と、芦沢さんは指摘する。
関祐介さんもやはり、伝統工芸である長崎県の波佐見焼のメーカーと協働した仕事を紹介した。会場に並べられたのは、メーカーのショールームの床に使った素材。カップやボウルなどの白い器にセメントを詰めたものだ。地元で「死に生地」と呼ばれる予備として焼かれる器で、売ることはできず、廃棄するにもお金がかかるという。関さんは設計にあたり、行き場に困るこの素材にセメントを詰めて並べて積み上げ、高さ60㎝の床としたのだった。その量感と密度は圧倒的で、「僕たちが手にとるモノの背景も見せてくれました」と長谷川さんはいう。
芦沢さんが提示したのは、名付けて「パンのミミ家具」シリーズ。自らが共同代表を務める石巻工房のためにデザインしたデスクの端材でつくったものだ。デスクの天板のサイズは、140×75cm。182×91cmの合板にリノリウムを貼った素材からつくるため、どうしても同じサイズの細長い部材が余る。「それがなかなか美しいんです」と芦沢さん。石巻工房はもともと東日本大震災をきっかけに「DIY」の精神で誕生した工房だ。その感覚は「アップサイクル」は非常に相性がよいのだろう。「石巻工房のブランドのひとつにしてもよいかもしれない」と、芦沢さんはいう。
デザイナーたちに共通するのは、「自分ごととして考える」という姿勢だ。実際に自分たちで目にした、廃棄される運命のものやデッドストックに着目して、それを素材と捉え、魅力的なものとして生まれ変わらせる。それは、新たな価値観の提示でもある。美しさ、新しさを感じさせるのは、ウブな素材でつくった新品とは限らないのだ。
「アップサイクルすることで、罪悪感から離れられるし、残材を減らすことで企業の利益につながるかもしれない」と、芦沢さん。メーカーはアップサイクルできる膨大な材料を持っているはず、という。製品が生み出される背景に関心をもつ消費者も増えている。まず、足下を見つめ直すことから始めよう。そんな人が増えることを望みたい。
(編集部 多田君枝)