BOOKS 『漆塗りの技法書』と『On the Beach1,2』

ものづくりの基本に気づかせてくれる2冊

 

ものづくりに欠かせない力に「持続力」がある。今回の2冊は、これまでの積み重ねを知ること、強い意志を持ち続けることから持続力の大切さを教えている。いずれも表現されたものはシンプルに見えるが、その奥行きはかなり深い。収斂とは持続していく中から生まれることもよくわかった。

『漆塗りの技法書』

十時啓悦、工藤茂喜、西川栄明著

誠文堂新光社刊  2,800円(本体価格)

漆

木漆工芸家の十時と工藤に取材して西川がまとめた漆塗りの技法書。これまでも漆の本はあったが、一つ一つの工程をここまで細かく撮影して記録し、そして拭き漆などの基本から根来塗りなどの変わり塗り、蒔絵などの加飾、金継ぎなどの修復まで多岐にわたった解説した本はなかったのではないか。内からにじみ出る漆の美しさは、何度も何度も繰り返す地道な作業、多くの先人たちの知恵による技術の積み重ねから生まれるのである。漆器がJAPANと呼ばれる理由が十分納得のできる内容になっている。

 

 

 

 

 

『On the Beach 1,2』

ヨーガン レール著

HeHe/ヒヒ刊  On the Beach 1 2,000円(本体価格)

On the Beach 2 1,800円(本体価格)

 

ヨーガン11971年に来日して、テキスタイル&ファッションデザイナーとして活躍してきた著者には、いつも自然への思いがあった。70年代の竹芝の事務所は、三層分吹抜けたような天井の高い倉庫ビルにあって、一歩足を踏み入れると、目の前に広がる青々とした東京湾の景色とゴムタイヤを細かく裂いて敷き詰めた床材の感触に圧倒されたものだった。著者の作品はいつでも人間の身体の奥底に語りかけてきた。

この本は、今年の夏に開催された東京都現代美術館展覧会「ここはだれの場所?」と連動して出版された。2006年から南の島に暮らした著者が、浜辺に打ち上げられたゴミの多さとおそろしさを伝えた本だ。1は打ち上げられたゴミを使ってつくった「美しく実用的な」ランプの数々。2は散歩のたびに浜辺で見つけた形のくずれたビーチサンダルが淡々と続く。それらはゴミとは思えないほど美しい形なのだが、その鮮やかすぎる人工的な色に、何とも言えない不安な気持ちにさせられる。

余分な言葉は一切ない。美しいものをつくりながら、きちんと「赤信号」を発信している。理屈ではなく、感覚に直接語りかける著者の造形力と長く変わらないその意志に、心から感動した。

 

 

 

 

 

 

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