独自の視点から建築を読み解き、書籍出版から展覧会の企画まで幅広く活躍している著者が、早稲田大学の授業で語ったままを記録した「近代日本の建築史」である。
20世紀以降のモダニズム(近代)の本質を捉えるために、ルネサンスから産業革命、20世紀の芸術運動と建築、明治以降の日本の動きへと続くが、これだけで本の3分の2を占めてしまう。しかし、それは教科書的にダラダラと続くのではなく、より精緻に納得のいくものにするために、時代背景などがわかるエピソードを語り、映画などは実際に一部上映しながら、リアルな時代認識に導く講義になっているのがわかる。国会議事堂やヒトラーの建築を例にとった国家デザインの話など、臨場感が伝わり楽しくなる。
そして最終の12回目の講義で、ようやく「ポスト丹下健三」の時代、1970年代以降の日本のモダニズム変革期に入る。
著者は、「モダニズム/近代主義—機能主義」批判に端を発したアンチ・モダニズム(反近代主義)の方法は4つあるという。それを「フォルマリズム(形式主義)」→反住器(毛綱モン太)、住吉の長屋(安藤忠雄)など、「セルフエイド(自己扶助)」→幻庵、開拓者の家(石山修武)など、「リージョナリズム(地域主義)」→大学セミナーハウス(吉阪隆正)、名護市庁舎(象設計集団)などの錚々たる建築家の作品で解説している。ドラマチックな解釈はワクワクすること間違いなし。
「クリティカル・グリーニズム(批判的緑化主義)」にいたっては、山川山荘(山本理顕)に始まり、中野本町の家、せんだいメディアテーク(伊東豊雄)とつなぎ、さらにHOUSE A(西沢立衛)、犬島精錬美術館(三分一博志)、ニラハウス、高過庵(藤森照信)へと著者らしい見事な展開をみせる。本を読んでもこれだけドキドキするのだから、講義を聞いている学生はどんな印象を持っただろう。内容の濃い一冊である。
(中野 照子)