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【未】ケンチク学ビバ Vol.56|関東学院大学 建築・環境学部 建築・環境学科

関東学院大学
建築・環境学部 建築・環境学科
教授 黒田泰介
取材・文/加藤 純
Taisuke Kuroda 1967年東京都生まれ。91年東京藝術大学美術学部建築科卒業。92〜94年イタリア政府給費留学生としてフィレンツェ大学建築学部都市・地域計画学科に留学。M.カルマッシ建築設計事務所を経て、2000年東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了。フィレンツェ大学客員研究員を経て、12年から関東学院大学建築・環境学部教授。 関東学院大学 建築・環境学部 建築・環境学科 神奈川県横浜市金沢区六浦東1-50-1

歴史的建造物や都市空間との 時間をかけた付き合い方を研究
 明治17年(1884年)に横浜山手に創設された横浜バプテスト神学校を源流にもち、11学部からなる関東学院大学。建築・環境学部は、もとの工学部の建築学科と建築設備工学科が統合されたもので、「デザイン/エンジニアリング」を軸とした建築学に、過去から未来へ持続する「時間」と、人を取り巻く「環境」という2つの視点を加えて、多角的また総合的に学ぶことを目的としている。1年次と2年次には建築・環境学の基礎科目を学び、3年次からは「建築デザイン」「すまいデザイン」「まちづくりデザイン」「建築エンジニアリング」「環境共生デザイン」の5つのコースに分かれる。
 デザイン分野の授業を受けもつ教授の一人、黒田泰介さんは「レスタウロ(Restauro)」をベースに、人と都市・建築との、時間をかけた付き合い方を研究している。レスタウロとは、歴史的な都市と建築の保存・再生・利活用の実践的手法を指すイタリア語。大学でイタリアの都市史を専攻していた黒田さんは、1990年代末にフィレンツェ大学に留学し、その後に現地の建築事務所で勤務したなかでレスタウロの思想に触れたという。
「世界遺産が最も多い国、イタリアでは美術品から建築、都市、さらに景観まで、幅広い範囲でレスタウロという言葉が使われます。ルッカという都市には古代ローマの円形闘技場を再利用して住宅にした例もあり、これは古い建物を大切にしながら創造的に活用していく姿勢をよく表しています。このようなレスタウロの考え方を日本でも採り入れたいと、帰国後は大学で教える立場としても建築の再生をテーマに取り組むことにしました」
 建築単体のデザインを考えるだけでなく、周辺環境との関係性、そして使う人の立場に立った新しいライフスタイルの提案を重視しているという。
実践的に考えるレスタウロと 3Dスキャンによる実測調査
 黒田さんが受けもつ「まちづくりデザイン」コースでは、3年次に必須科目の「まちづくりデザインスタジオ1・2」がある。「まちづくりスタジオ2」では、前半の7回は既存の建造物や街を、実測調査などを通じて図面を作製して分析し、後半の7回ではその図面を使って学生各自が再生や利活用の案を考えて提出する。このプロセスを通じて、黒田研究室に関心をもつ学生も多いという。「黒田研究室を志望する学生は、設計にも歴史にも興味があり、建物の再生を本格的に考えてみようという学生が多いと思います」。建築・環境学部では4年生から研究室に所属するが、先述の5つのコースとは関係なく選ぶことができる。
 建築・環境学部の学生は卒業研究として、卒業論文と卒業設計のどちらかを選択できる。黒田研究室では前期はゼミナールとして建築見学や実測調査など研究室の活動を行い、後期には設計の選択が約8割、論文が約2割という比率でそれぞれの卒業研究をまとめている。黒田さん自身はイタリアの歴史的都市と建築に関する研究を主体としながらも、研究室では地元の横浜や横須賀などに残る歴史的建造物や近代化遺産に関する3Dレーザースキャニングによる実測調査を継続的に行っている。これらは自治体の教育委員会や歴史的景観委員などとの協働によるもので、最近では横須賀市の博物館で展覧会を開催し、研究成果を多くの人に見てもらうことができた。
 黒田さんは、手を動かしながら考えることの重要性を説く。「建築や都市空間に身を置いて、各部を測りながら図面化したり模型をつくることを通じて、思い、感じることを大切にしてほしい。文化財の保存で『オーセンティシティ(真正性)』といわれる要素は街場の小さな建物にもあって、それを大切にすることが街の味わいにもつながります」。学生には自分なりの感覚をつかみ、広い視野をもって社会で活躍してほしいと願っている。

「浦賀ドック・機関工場」3Dスキャンと展示
明治32年(1899年)に建造され平成15年(2003年)に閉鎖されるまで、1世紀以上にわたって約1000隻にのぼる船の製造や修理が行われてきた、住友重機械工業旧浦賀工場の跡地。近代化産業遺産群に指定されている。令和3年(2021年)に神奈川県横須賀市に寄附された翌年、黒田研究室は日本では浦賀にしか現存していないレンガ造りのドライドック全体の3Dレーザースキャニングによる実測調査を実施。その後、ドックの地上部分に設置されてシンボルとなっていた20tのタワークレーンや機関工場は、老朽化のために取り壊し撤去されることに。精密なデジタル資料として記録に残したことは、大きな意義をもっている。

上/3Dレーザースキャニングで計測した「浦賀船渠(せんきょ)第1号ドライドック」の平面図と断面図。素材のテクスチャーまで表現されている。中左/横須賀市自然・人文博物館で「3Dスキャンでみる横須賀近代化遺産」として、浦賀ドックを含む展覧会を2022年10月から23年3月に開催。大きく出力した図面のパネルと模型で施設を紹介した。中右/横須賀市の国指定史跡の「千代ヶ崎砲台跡」も模型を作製して展示。下/展示に関わった全員で集合。

水を抜いて乾いた状態で船をメンテナンスする「ドライドック」。全長約180mのドックには200万個以上のレンガが使われ、長手と小口のレンガを交互に並べる「フランドル積み」で施工されていることが特徴。

「万代会館」実測と軸組み模型づくり
京急・津久井浜駅からほど近い位置にある「万代(まんだい)会館」は、帝国銀行頭取などを務めた財界人・万代順四郎氏晩年の邸宅。横須賀市内で唯一現存する昭和初期の木造平屋建ての別荘建築である。茅葺き屋根をもつ3棟が、4000㎡を越える日本庭園と一体になっている。現在、建物内の利用は中止されているが、黒田研究室では3Dレーザースキャンによる実測調査を実施。建物の周囲や室内、屋根裏の小屋組みなど、人が入りにくく見えない場所までさまざまな方角からレーザー光線を当てて測量し、立体的なデジタルモデルを作製した。

上/3Dレーザースキャニングでスキャンしたデータからつくられた万代会館の断面図。茅葺き屋根内部の小屋組みまで細かく表現されている。中左/調査では、メジャーで計測しながらの野帳作製も併用。中右/実測図面をもとにして、全体の白模型と、柱や梁などの構造を表す軸組み模型を作製した。下/浦賀ドックと同じく「3Dスキャンでみる横須賀近代化遺産」展にて陳列、現地で学生によるプレゼンテーションを行った。

一般公開されている庭園からも、建物の外観を3Dレーザースキャニング。ポイントごとにスキャンしていき、複数の位置での計測データをパソコンで合成しながら3Dデータにしていく。

「三笠ビル」建築類型の調査と分析
京急・横須賀中央駅の北側に立つ「三笠ビル」は1959年、日本不燃建築研究所(所長/今泉善一)の設計によるもの。弓状の市道の両側をRC造のビルに建て替え、「防火建築帯」として不燃化した建築物である。元の商店の区画割りが継承され、4.5m幅の中央通路(市道としては廃止)には屋根が架けられ、70ほどの店舗が並ぶ建築がつくられた。現地調査と文献調査を進め、多様な住戸群の分類を試みている。

左/大通り側の外観。統一された都市美が追求されたモダニズム建築。右/市道だった道に屋根を架けて屋内化し、車の通らないアーケード商店街となった。

上/山を背負い、元の敷地割りを引き継いで建てられた「三笠ビル」の白模型。西洋都市の一街区を思わせる長大な建物。下/北東側(大通り側)ブロックにある21戸の専有部それぞれの間口と奥行きを調査し、平均値を算出。さらに住戸を間口と奥行きのスパンをもとに分類して、大きく4つのタイプに類型化し、建物全体の中での位置づけを分析している。

STUDENTS’VOICE
歴史がある商店街に興味をもっていたことと、黒田先生とフィーリングが合いそうだったことから研究室を選びました。卒業設計のテーマとした東京・荒川区のジョイフル三の輪商店街の再生では、調査した上で足りないものをどうつくればいいのかを考えました。学部4年生のときは設計でも論文でも1年がかりになるので、同じ研究室の学生は互いに元気づけ支え合うような存在になりました。仲間は研究室選びのポイントになりますね。
小嶋竜也さん(修士1年)

卒業研究に向けた多様な取り組み
4年ゼミ生は卒業設計か卒業研究のどちらかを選択し、それぞれのテーマを設定する。前期はゼミナールとして研究室の活動が中心となり、設計や論文執筆は後期からとなるが、研究室で調査したフィールドに敷地を定めて設計する学生も。テーマや立地は学生それぞれの興味にもとづき、バリエーション豊か。

STUDENTS’VOICE
研究室で調査をした「浦賀ドック」を敷地とした複合施設を卒業設計にする予定です。近代化する日本で生まれ、先の大戦時にも造船に使われて現存する浦賀ドックは、激動する時代とともにありました。戦時中の体験談などを伝えることを含め、さまざまな世代が考えを共有したり、意見を出し合える場をつくりたいです。
和田享久さん(学部4年)
海に面した浦賀ドックを中心とした大きなランドスケープの中で、さまざまな機能をもつ複合施設とする計画のスケッチ。

STUDENTS’VOICE
祖父母が経営していた町工場が操業を停止し、加工機などが撤去された様子を見たときに大きな喪失感を感じたことから、「“寂しさ”を可視化することができないか」と考えました。高齢化社会を迎え、空間の記憶が残るような利活用はさらに求められると思います。“寂しさ”の可視化を通じて、自分も工場をうまく再生したいと考えています。
釘嵜 洸さん(学部4年)
おもちを製造していた元工場の様子。寂しさを覚える要因を検証し、この場所を自分の手で活用していくことを釘嵜さんは検討中。

STUDENTS’VOICE
所属は環境デザインコースですが、西洋建築史などに興味をもち黒田研究室に入りました。エディトリアルデザインへの関心もあって編集やデザインの力を伸ばすためにも、横浜赤レンガ倉庫と新港地区のパンフレットの分析をテーマにしました。建築や街を広くアピールするメディアとして、自分的に最善の案を導きたいです。
富田天海さん(学部4年)
上/市で配布されている56種類ほどの観光パンフレットを調査。下/新港地区に残る歴史的建造物と土木遺構を地図上にプロット。

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