宇都宮大学
地域デザイン科学部 建築都市デザイン学科
教授 横尾昇剛
取材・文/加藤純
コンフォルト2026年8月号 no.210より
地域に学び、地域に返す
大学と地域の支え合い
栃木県の宇都宮大学は文系・理系双方の学部を有する国立総合大学で、多角的な学問分野を展開。共同教育学部、工学部、農学部、国際学部、地域デザイン科学部、そして近年新設されたデータサイエンス経営学部で構成され、各々が地域と連携しながら人材育成に注力する。
大学として重視してきたのは「地域に貢献する」という明確な使命。また教員一人あたりの学生数が約3人で学生と教員の距離が近く、学生一人ひとりに寄り添う手厚い指導が大きな特徴となっている。
2016年に設置された地域デザイン科学部は、建築・土木分野が工学部から独立した学部である。文系教員との連携で「文理複眼」を実現。地域社会の課題を多面的に捉えて学び、その成果を解決方法に還元する教育・研究活動を行う。コミュニティデザイン学科(文系)、社会基盤デザイン学科(土木)、建築都市デザイン学科の3学科があり、1〜2年次は学部共通科目で文系・理系の学生が共に履修する。
3年次には「地域プロジェクト演習」が年間の必修科目として設定されており、独自性を示す。学生チームが主に自治体パートナーから「お困りごと」という名の地域課題を受け取り、調査やグループワークを行う。目的は課題の調査・可視化と提案方向性の提示だが、実装に至る例も出始めている。
建築都市デザイン学科では、研究室へは4年次から配属される。卒業設計と卒業論文を課し、学生は双方を集大成として向き合う。協業を通じた調査や提案、デザインと工学の両立を培った学生は、就職後の評価も高いそうだ。
地域資源に着目した
環境性能の研究
横尾昇剛(のりよし)さん自身は、都市環境工学の研究室で学び、地域から建築単体までのエネルギーと環境性能を専門としている。宇都宮大学に着任してから、地方の特性に合わせた研究の枠組みを模索。温泉熱の活用や大谷石など、地域特有の資源に着目するようになった。研究室では、外部空間の活用による省エネルギーやにぎわい創出、奥日光の自然環境の健康効果測定など、扱うテーマは多岐にわたる。
重視しているのは、自身の研究を引き継がせることではなく、学生各自の興味にもとづく強みを伸ばすことだという。また、地域からさまざまな視点で研究材料を見つけ出し、地域への貢献を体現すること。
「それぞれの地域に入っていくと、優れた〝目利き〞であるキーパーソンが存在します。協力的な関係者も多く、地域を題材とした教育・研究を行ううえで、非常に恵まれた環境にあると感じています」
学生たちがキーパーソンや関係者と接する機会を積極的につくり、共に活動することで、より深い学びを得られるよう工夫している。
環境の視点を通じて
目利きへの成長を促す
研究室では3年次までの履修に引き続き、環境やエネルギー、二酸化炭素の排出抑制といった観点から物事を捉える訓練をする。学生たちは再生可能エネルギー、温泉排熱、採石空間の活用、大規模工場の自然換気など、多様なテーマをもとに、地域課題の解決と環境負荷低減の両立を目指す。そして自らの関心を深め、将来のキャリアに活かせるよう研究を進めている。
横尾さんは学生が研究を通じて、環境問題への視点を強化することを促す。「有効な提案を速やかに行うことは現状では難しいかもしれません。さまざまな地域や対象の研究を通じて、物事を独自の視点で捉える〝目利き〞の能力を身に付けてもらえれば。そして将来的には、地域社会で活躍する人材となってほしい」と期待を寄せる。
横尾さんが主導し推進するプロジェクト
大谷エリアの地下冷熱エネルギー活用
大谷の採石場跡地エリアの地下には、年間を通じて8~13℃と通常の地下水より低温の水が溜まっている。これを「冷熱エネルギー」として活用する実験を、宇都宮市の協力を得て実施した。最終形の一例として、宇都宮のエネルギー企業のクラフトワーク社と連携し、半地下型の農業ハウスを設計・導入した。夏季のイチゴ栽培では通常冷房に多くのエネルギーを必要とするが、地下水を用いた冷熱の活用でエネルギー負荷を抑えられる。



左/地下水を循環させる機器のシステム。中/半地下型農業ハウスの温熱環境を測定。冷房装置がある半地下部分の上下で、温度が大幅に変化している。右/腰壁と床への配管でイチゴの株元を冷却。大谷石の端材で腰壁がつくられ、冷えた大谷石が輻射の作用でハウス内を冷却する。石の表面が水分の蒸発と共に熱を奪われることでも、温度が下がる。イチゴ栽培の作業者の熱中症リスクも低減することができた。
奥日光・湯元温泉での温泉熱活用
奥日光・湯元温泉の温泉旅館「ゆ宿 美や川」を対象に、温泉熱利用ヒートポンプシステムをクラフトワーク社と検討して導入。以前は石油ファンヒーターで客室暖房・給湯を行っていたが、国立公園の環境保全の観点から化石燃料依存から脱却し、未利用だった源泉約70℃の温泉排熱を有効利用することに。放射パネル導入後は冬季の快適性が大幅に改善し、エネルギー消費および二酸化炭素排出を約4割削減できた。当初は旅館主導で自治体は関与していなかったが、その後、湯元地域・奥日光エリアが環境省の「脱炭素先行地域」に指定され、現在では省エネルギー・二酸化炭素の施策がエリア全体で展開されている。


上/温泉熱利用ヒートポンプシステム。湯元温泉は硫化水素濃度が高く金属腐食を起こすため、最終的にはチタン製熱交換器を採用。加工工程の工夫によりコストを抑制し、耐久性と経済性を両立した。左/放射パネルを設置した客室内の熱画像で環境を評価。冬季の厳寒期でも壁や床、天井で温度が一定に。従業員の労働環境も改善した。
外部空間の活用と奥日光の自然環境調査
建物外の空間で快適に過ごせる設えについて研究し、照明や空調の使用を抑え、省エネや二酸化炭素削減に繋げる試みと提案を実施。こうした活動を屋外で見せることで人々の興味を引き、にぎわいを創出する効果もあるとみる。また、奥日光の豊かな自然環境を体感してもらうため、学生と共に温度計や脈拍計を用いてさまざまなルートを調査した。消費カロリーや心拍数の変化を測定し、健康増進効果を可視化。留学生と日本人学生の測定結果からは、歩き慣れている人の脈拍が上がりにくいという発見もあり、「プチ高地トレーニング」としての可能性も見出した。

ゼミを屋外で定期的に実施し、半外部空間で過ごすスタイルを学生と検証。

高低差の大きな奥日光のエリアで、歩行、走行、自転車移動時の環境・健康データを測定。恵まれた環境資源を巡る複数のコースと繋ぎ合わせた。


上2点/15地点で温熱環境を測定し活用提案を行った。
学生が進める 地域に根ざした研究活動

温泉排湯利用システム概念図

上/奥日光における未利用エネルギー活用として、温泉排熱の利用を研究。源泉から引湯・排水に至るまでの過程失われるエネルギー量の変化を把握したうえで、温泉熱利用策を検討。左/熱を回収し、道路の融雪や施設の暖房・給湯に利用して省エネルギー化と二酸化炭素削減に繋げる構想を示す。

地元の大学に建築の学科がなく、隣県の宇都宮大学に進学しました。3年生のときに授業で行った環境実験が楽しくて適性を感じ、横尾研究室を選択しました。就職も設備設計の道を模索中です。研究では除雪負担軽減や観光環境の改善を検討しています。宇都宮大学では教員と学生の距離が近いという特徴があり、横尾先生は優しく面白く、学生目線で接しやすいですね。


上/1300年以上の歴史や記憶を持つ大谷エリアの露天掘り跡地を、新たな文化的価値のあるアート空間として活用する案の卒業設計。左/地下空間と露天掘り空間の温熱・光・音環境を実測・調査し、それぞれの特性を把握することで、観光や貯蔵など新たな利用方法を提案することを目指している。

大谷石採石場の案内アルバイトで魅力と可能性を感じ、横尾先生が大谷エリアの研究をしていたことから横尾研究室を選びました。現在は特性の異なる3つの空間で、温熱環境、音環境、光環境について測定しています。毎週開催されるゼミでは、先生は気さくに話しかけてくれ、学生からの質問に真摯に答えていただけるので、研究を進めやすいと感じています。

大規模工場の大空間では、自然換気をしようにも風や熱が均一に広がらず、暑さや空気の滞留が起きやすい。この課題をふまえ、新設の工場施設を対象に、室内外の温度・風速・風向の実測と数値解析(CFD)により、開口・屋根形状が換気効率に与える影響を評価。屋根付近の過熱も可視化した。

空港など大規模空間の計画・設計に関わる企業に就職したいという希望が以前からあり、大空間の自然換気評価という研究テーマを選定する動機になりました。就職活動や就職後も活用できる内容を目指しています。横尾先生は基本的に学生たちに親切で、発想が豊かで提案が迅速だと思います。行き詰まった時には次の一手を示してくれ、研究継続の支えとなっています。


日光市を舞台に、再生可能エネルギーの利活用と夜間光環境が地域の魅力に与える影響を研究。日光杉並木公園内の古民家周辺などでスポットライトや足元灯などの仮設照明を使う実証実験をした。スポットライト、足元ライト、チェーンライトの種類や色温度を変えた複数の照明パターンについて、現地の人々の感じ方をアンケート調査を通じて収集し分析する。

以前から関心があった建築を学ぶなかで環境効率や持続可能性の重要性を実感し、横尾研究室がテーマの追求に適すると思い選びました。屋外の照明環境の見え方に関心があり、研究室の先輩が取り組んでいた関連プロジェクトの延長で、現在のテーマへと至っています。最終的には、日光市の光環境整備に再生可能エネルギーを活用し、場の魅力を高めることを目指しています。

学部4年生8名はそれぞれが地域課題の解決や活性化を目指した卒業設計を構想中で、伝統的な踊りの行事を盛り上げるための施設設計、健康増進施設、複合スポーツ施設などの計画を進める。注目すべきは、4年生の多くが既にハウスメーカーやゼネコンなどに進路を確定させている点。学生の主体性もさることながら、宇都宮大学ならではの先生の面倒見のよさがあってこそだ。前列左より古澤美海さん、澁谷信孝さん、塚澤早紀さん、後列左より小嶋由莉さん、八重樫菜月さん。

1969年生まれ。92年早稲田大学理工学部建築学科卒業。早稲田大学大学院理工学研究科にて建設工学を専攻し工学博士を取得。95年より宇都宮大学工学部助手、99年と2003年にブリティッシュコロンビア大学建築学部の客員研究員、宇都宮大学大学院工学研究科准教授を経て、17年より宇都宮大学地域デザイン科学部教授。25年より地域デザイン科学部学部長。
宇都宮大学 地域デザイン科学部
栃木県宇都宮市陽東7-1-2 tel 028-689-6233(代表)
https://www.utsunomiya-u.ac.jp/academic/frd.php
コンフォルト2026年8月号 No.210より
