広島工業大学
環境学部 建築デザイン学科
准教授 杉田宗
取材・文/加藤純
1961年に創立した、広島工業大学。建築を学べる学科としては工学部建築工学科のほか、93年に増設された環境学部建築デザイン学科がある。2016年に環境デザイン学科から改組された学科で、この改組にあたってデジタルデザインのカリキュラムを整備し、研究室を持ったのが杉田宗さんである。国内ではまだ少ない「建築×デジタル」の教育を実施し、デジタルファブリケーションを利用した設計やものづくりの環境を整えている。
杉田さんは「建築業界では、設計と施工と維持管理が分断されていることが大きな問題です。これらを繋げる情報技術のリテラシーを、学生のうちから高めることが世界標準になっていくと思います」と語る。自身は建築やインテリアデザインの分野で留学や海外勤務経験があり、「設計が好きな学生を増やしたいし、デジタルツールで設計する若者を育てたい」という想いが強くある。
段階的かつ体系的に学ぶ
コンピューテーショナルデザイン
建築デザイン学科のカリキュラムは、設計を軸に木工インテリアとデジタルデザインで構成されている。デジタルデザインは、大きくはコンピューテーショナルデザイン、デジタルファブリケーション実習、B IM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)実習の3つがあり、段階的に進んでいく。「コンピュータで作業するだけでなく、実際の製作を通してデジタルとアナログを横断するコンピューテーショナルな思考を養い、つくりながら考える力を伸ばすのが特徴です」。
1年生ではベンチを手づくりすることで木工を体得する一方で、後期に3Dモデリングの基礎を習得し、コンピュータ上で形状を自由につくる技術を身に付ける。2年生までは約120名の学生のほぼ全員がコンピューテーショナルデザインを履修し、各自のパソコンに3Dソフトをインストール。2年前期では3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を用い、作製した3Dモデルを具現化する方法を覚える。
2年後期にはデジタルデザイン系科目の出口として、BIMを使った設計の基礎を学ぶ。BIMは3Dモデル上で部材情報などの属性を付加した建築物のデータを、設計や施工、コスト計算や維持管理まで一元的に運用するというもの。属性情報を持った3Dモデリングについて理解し、モデルの図面化とビジュアライゼーション、基本設計レベルの技術を習得する。
多彩なものづくりを通して
多角的な思考を培う
研究室に配属されるのは3年生の前期。杉田宗研究室では、2年生までに学んだコンピューテーショナルデザインをさらに進め、デジタルファブリケーションによりパーティションやパビリオンなどをつくる。「一般的な設計課題では向き合うことのない、材料や工法、予算やスケジュールといった現実に直面することで、多角的な思考が鍛えられます。そうして得られる考える力は、その後の研究やプロジェクトに活かされます」。パビリオン制作では3年生と4年生が協力することで、機械の扱いやポイントを習得できる。
4年生は各自で研究。テーマはデジタルファブリケーションやBIMが多いという。BIMに関連し、建築の維持管理を踏まえた「クリエイティブメンテナンス」も研究室で注力するテーマ。「循環型の建築が重視されるなか、デジタル活用を通してメンテナンスを捉え直すことが鍵と考えています」。ロボットも絡めた実証実験は、研究室の枠を超えて協働で進めている。「デジタルを通じて視野を広げて活躍できる場を、一緒に見つけていきたい」と語る杉田さんと学生たちの表情は明るい。
カリキュラムの内容
コンピューテーショナルデザイン
1年生後期にデジタルデザイン科目の入口として、3D CADソフトのRhinoceros(ライノセラス)に触れ、コンピュータ上で3Dのモデルをつくる基礎スキルを身に付ける。またプラグインソフトGrasshopper(グラスホッパー)を使い、要素(パラメータ)をプログラミングで操作するパラメトリックモデリングも学ぶ。学生は、杉田さんが公開する映像を授業開始前に見て操作を覚え、授業ではアウトプットに徹する。


「3次元模様」の課題で提出された作品。学生が1人ずつ伝統的な模様を選び、模様の構成を理解したうえでGrasshopperで再現し、3次元に展開していく。


1年生の最終課題で、建築デザイン学科がある校舎をつなぐ渡り廊下を新しくデザインした学生の作品(2点とも)。屋根や手すり、階段などをプログラミングを駆使して3Dで表現、学生それぞれが個性的な案をアウトプットする。
デジタルファブリケーション実習
デジタル加工機を使い、3Dでデザインされたものを具現化していくことに重点を置いた2年生の実習。レーザーカッター、3Dプリンタ、NC加工機(ショップボット)、それぞれの特徴を理解し、これらを用いる3つの課題を通してデジタルファブリケーションの特性を活かしたデザインを考え、加工に必要なデータ作製について学ぶ。各種加工機を据えた大規模な木工室を備えており、アナログなものづくりとデジタルでのものづくりを行ったり来たりできるような環境としている。

3人1組で原寸の「スタッキングスツール」をつくる最終課題。910×910㎜、厚さ12㎜の合板1枚を用い、NC加工機で実際に切り出して、組み立てる。


600×400㎜の厚紙1枚で全長1mの橋をつくる課題。3Dモデルをパーツに分解、レーザーカッターで切り出して製作し、荷重をかけて強度を検証する。


10×10×18㎝、体積450㎤以内で、一方向からの風に対して抵抗の少ないタワーの形を検討し、3Dプリンタで出力する。
BIM実習で3Dモデリングを理解
デジタルデザイン系科目のゴールとして、2年生後期でBIMによる設計の基礎を習得。BIM特有の属性を持った3Dモデリングを学び、実習では3Dモデルから基本設計レベルの図面やパースを作製。扱うBIMソフトはArchicadまたはRevitのどちらかで、ビジュアライゼーションのソフトTwinmotionとの連携まで行う。以降の設計演習や卒業設計でBIMを繰り返し使い、実践に近いデジタル技術を身に付ける。学生同士で頻繁に意見交換することでスキルアップを目指す。

2年生前期の設計演習の課題で取り組んだ「オフィスビル」を題材として、BIMを使って自ら再び設計する。仮想プロジェクトの基本図一式を、BIMで再現する課題にも取り組む。最終的な図面をイメージしながらモデルを編集することで、図面の質を上げていく。

ミース・ファン・デル・ローエ設計の「バルセロナ・パビリオン」を、図面をもとにモデリングし、内観・外観をレンダリングする課題。光の当て方の効果や視点の設定での見え方も学ぶ。
研究室の活動
デジタルファブリケーションの試行
学生は3年生の前期からゼミに配属となり、2年間を研究室で過ごす。杉田宗ゼミでは、それまでのデジタルデザイン系の授業では扱いきれなかった内容を習得する。デジタルファブリケーションの延長としてのプロトタイピング、Grasshopperの応用、ビジュアライゼーションなどのワークショップを開催。学生同士が教え合うことでの学びの効果も期待している。


3年生の課題、レンガを3Dでデザインする「ニューブリック」。右/3Dプリンタで型をつくり成形。左/1m角に積み上げる。


3年生の最後の課題はパビリオンの制作。複数の案を秋の競技で4つに選定。つくり方をデザインしながらデジタルファブリケーションで構築。全高3mほどの形状を4年生と3年生が協力して組み上げる。
デジファブを実プロジェクトで実践
杉田宗ゼミでは年に1件ほどインテリアデザインの依頼を受けることがあり、デジタルファブリケーションで制作している。山根木材ホームの福岡支社の社屋では、木組みで多孔質のポーラス構造を持つパーティションをデザインし、木材の柔らかさを表現。翌年には、同社の福山支社で木組みシステムをバーションアップし階段の構造に用いた。実物件を通じて可能性を広げている。

福山支社での木組みシステムによる階段を、強度を含めて設計。

あらかじめ加工場で部材を組み立てて検証した。

福岡支社の社屋の現場に加工した部材を持ち込み、組み立てる様子。部材が納まらない、高さが合わないなどの問題を大工とともに解決した。
BPSを使ったロボットによる維持管理
建物内の自己位置推定技術BPS(ビルディング・ポジショニング・システム)を、広島工業大学の「建築保全業務ロボット研究センター」(センター長:杉田洋教授)と協働で開発。掃除ロボットが稼働する場面で、衛星信号の届かない屋内での位置情報を把握するため、建物側にセンサーを設置。BIMの情報と連携することで、ロボット
側に位置測定システムを装備しなくても現在位置が把握でき、効率的なデジタルメンテナンスを実現する。

掃除ロボットから送られる情報を収集し、BIMモデルで維持管理情報を表示した画面。ロボットは、現実の建物と同じモデルに重ね合わせるデジタルツインで位置情報を把握しながら走行する。

実際の室内空間(三宅の森Nexus21)。

BPSの研究を学部生のときから続けています。建物内でのセンサーで現実世界とデジタル世界の重ね合わせは成功したので、今年は大学内で掃除と警備のロボットを動かそうと、プラットフォームの再構築をしています。研究室へは先輩に誘われて入りましたが、設計からリアルでの製作まで活動が充実しています。就職はゼネコンの生産技術本部に決まっていて、施工BIMで現場をサポートしていきます。

BPSの研究の発展として、建物内で群れとして動くロボットの制御についての研究をしています。維持管理の拡張を目指し、ロボットのための設計基準などを考えていきたいです。杉田先生の活動を入学前にX(旧Twitter)で知って、建築とデジタルの関係に興味を持ちました。今も続いている「バーチャル・オープンキャンパス」で、在校生に案内してもらったことも印象に残っています。

BIMの維持管理に関連して、建物の施工検査をする人の作業特性を検証する研究をしています。作業者の集中とリラックスなどの度合いについて、ヒアリングではなく、脳波を測定する機器を使って把握します。計測したデータを維持管理ソフトと連携することで、将来はメンテナンスにゲーム性を取り入れるようなことができるかもしれません。大学院に進学し、維持管理BIMやBPSの研究を続ける予定です。

1979年広島県生まれ。2004年パーソンズ美術大学卒業。米国と中国の設計事務所に勤務後、10年ペンシルバニア大学大学院建築学科修士課程修了。杉田三郎建築設計事務所を経て、15年広島工業大学助教に着任。現在、16年に改編された建築デザイン学科にて准教授を務める。
広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科
広島市佐伯区三宅2-1-1 tel 082-921-3121(代表)
https://www.it-hiroshima.ac.jp/
