新体制のもとスタートした「PROPOSTE」
2026年5月5~7日、テキスタイル見本市・第33回「PROPOSTE」がイタリア北部のコモ湖畔の町チェルノッビオで開催された。今回は開催前日にコモ大聖堂を訪問。内部には巨大なシルク刺繍のタペストリーが数か所に吊り下げられていて圧巻の一言。シルクの町、コモであることを改めて実感する良い機会となった。
昨年の78社13か国に対して今年は87社14か国が出展。リトアニアからの初出展、スコットランド企業の復帰、ベルギーからの新規の出展など、出展社数は昨年よりも微増。また、今年度から主催者会長にPARÀ社CEOのマルコ・パッラヴィチーニ氏が就任。PARÀ社はオーニングやパラソルなどのアウトドア用テキスタイルや椅子張地などの分野をイタリアでは牽引する企業。マルコ氏は、欧州のインテリア・デザイン展示会ビジネスにおける「PROPOSTE」のポジションをより高位に保持するという、明確な課題と決意を表明した。
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見本市会場。出展カテゴリーとしては、家具用が60.9%、カーテン用が32.2%、その他、壁装材などの分野となる。*

PROPOSTE主催者会長に新たに就任したマルコ・パッラヴィチーニ氏。

イタリア・コモ出身の建築家ジョゼッペ・テラーニによる20世紀イタリア合理主義の傑作「カサ・デル・ファッショ」と、14世紀から400年かけて建築されたバロック様式のドームを擁するコモ大聖堂。歴史のコントラストと奥深さを感じさせてくれるコモ市内。

コモ大聖堂に展示されている「聖アッボンディオのゴンファローネ」。聖アッボンディオはコモの守護聖人。

シルク刺繍のタペストリーの一部。シルクのほか、金糸、銀糸も混紡され精巧な刺繍で神々しさを表現。
クリスティーナ・チェレスティーノがデザインしたラウンジが登場
今年度のハイライトの一つ目は、中央エントランスホールの奥のスペース「ラウンジ・エセドラ」。空間デザインを手掛けたのは、イタリアの建築家、デザイナーのクリスティーナ・チェレスティーノ氏。美しい庭園が望める大きな開口部から自然光が差し込む半円形の空間は優雅でリラックスできるインテリアに仕立てられていた。天井からフラットに吊るしたテキスタイルをパーティションとし、自身がデザインした有機的なフォルムが魅力のソファ「Gala」を点在させている。家具の張地はもちろんファブリック、床は敷き込みのカーペットとなっており、商談の用途が多いこのラウンジで自然と会話がテキスタイルと繋がる狙いも見て取れた。以前は人通りが少なかった会場最奥のエリアにこのラウンジを配置したことで、動線を改善し、会場全体の回遊性を高める配慮も窺えた。
人気雑誌とコラボレーションしたアワードの創設
二つ目の試みは、イタリアのインテリア雑誌「INTERNI」との協働による「INTERNI.PROPOSTE AWARD 2026」の創設。近年、PROPOSTEで発表されたファブリックを採用し、製品となった家具を評価する機会として、家具メーカーとテキスタイルメーカー双方を受賞対象となる画期的な試み。Precious Touch部門、Inspired by Nature部門、Fine Outdoor部門の3部門に特別賞を加えた4部門のアワードを設け、Flexform社やDe Padova社など有名家具メーカーと共にテキスタイルメーカーが受賞した。PROPOSTE出展企業は表舞台に立つテキスタイルのエディターの陰になるような生産業者であることから、本アワードや「INTERNI」からの発信によって、認知が拡がる良い機会となるだろう。

雑誌INTERINI編集長ジルダ・ボヤルディ氏をはじめ6名の審査員で選考された。*

Fine Outdoor門受賞の家具メーカーRoda社 とテキスタイルメーカー JacqArt社。*

ホライゾングリーン系のトーンの低コントラストで構成されたラウンジ・エセドラ。商談、休息、アペリティーボなど様々な用途に利用。
注目企業の動向
Lodetex社
ミラノ・マルペンサ空港近くに拠点を置くLodetex社は、技術力を背景にデザイン性の高い製品をミドルからハイエンドの顧客層向けに製造。例年、美しいシアーカーテンが印象に残るが今年は遮光、遮熱効果のある機能性カーテンが出展されていたことは新しい驚きだ。

樹脂コーティングや複層織りすることなく超高密度ジャガード織りにすることで遮光性を実現。熱と圧力によるカレンダー加工によって光沢や柄も表現し、薄く軽くドレープもあることは技術と美しさを兼ねた逸品。

本来カットする緯糸をカットせずに残すことによって、ある部分を二重構造にして立体的なデザインとしているカーテン生地。
RATTI社
コモを代表する高級テキスタイルメーカー。高度なプリント技術と縫製技術を併せ持ち、世界のトップメゾンにも生地を供給。

耐久性、張りのあるポリエステル100%のジャガード織り。糸数を増やして打ち込みを緻密に織ることでプリントと見紛うほどの柄のメリハリと、深みのある色彩を「織り」だけで見事に表現。

同じくポリエステル100%で滑らかな手触りのベルベット。植物柄部分がプリントで立体感ある仕上がりに。

グラディエーションの美しいコットン製の壁紙が貼られた展示壁面にフェルナンド・ガルベロットのフラクタル幾何学のアート「レーティ・フラッターリ」。テキスタイルアートのある空間は新しいテキスタイルのポテンシャルだと感じた。
Torri Lana 1885社
ベルガモ近郊にあるTorri Lana1885社は家具用張地のテキスタイルメーカーとして、多くの高級ブランド家具メーカーが信頼を寄せる。「INTERNI.PROPOSTE AWARD 2026」のInspired by Nature部門でDe Padova社と共に受賞。


Gianfranco Frattini Collection。1970年代にフラッティーニが制作した未発表でこれまで一度も織られたことのない5つのパターンに加え、フラッティーニがインテリアプロジェクトで頻繁に用いた4つのパターンを加え、彼の娘であるエマヌエラ・フラッティーニ・マグヌッソンによって新たにカラーリングが施されたコレクション。昨今、ミラノ・サローネでも70年代の家具が復刻されるケースが散見されるようになり、発表後の評価が楽しみ。
EDA(エンツォ・デリ・アンジオーニ)社
EDA(エンツォ・デリ・アンジオーニ)社は生産量の約80%以上がイタリア国外への輸出、グローバル市場での存在感がある。近年、高級ブランド家具B&BItaliaのフランチェスカ・ブスネリ氏が同社の経営の指揮を執ることになってから、世界各国のハイエンドクラス家具メーカーの要求に幅広く応えるため「使いやすく汎用性の高い製品」を生み出すことを重視するようになった。

装飾性の高いベルベッドやジャガード織りのラインナップを展開、コットンやその他の繊維などを混紡した生地の種類を豊富にラインナップ。

ホテルやオフィスなどのコントラクト市場への意欲の表れかFR(難燃・防炎加工)のコレクションを拡充。

今年のミラノデザインウィークでは中央にあるようなブラウン、チョコレート系の深みのある色域が好まれていたようだ。
FASAC社
コモを拠点にするFASAC社は1955年設立。同社で染色工場も保有していることから染色、プリント、仕上げまでの全工程をグループ内で完結する生産体制を持つ。早くからプリント機械の導入をはじめ、最近では1時間あたり3,000メートルを印刷できる最先端のデジタルインクジェットプリント技術の「シングルパス」機を2台所有。

従来、濃い色の背景(地色)の上に、明るい色をプリントすることは困難だったが最新機によって濁りのない鮮やか仕上がりに。

柄部分をバーンアウトさせて立体的にし、更にプリントを施す。同社のモチーフは伝統的な柄が多い。理由としては社内に「ArchivioVivo」という8万点を超えるデザインモチーフ(柄)、色彩、テーマを収蔵、データベース化。古典的で美しいモチーフを単に復刻するのではなく、最先端のデジタルプリント技術を掛け合わせることで、現代のインテリアにフィットする「コンテンポラリーなプロダクト」へと見事にアップデート。
アクリル原着糸による屋外用の家具張地、オーニング、シェードなど屋外環境にも適用可能な紫外線による退色に強い高機能テキスタイルで信頼を持つ。
今年はフランク・ロイド・ライトやリナ・ボ・バルディなど有名建築家がデザインした住宅や建築をイメージしたデザインや色、織りを表現した製品が発表され、テキスタイルと建築の関係性も訴求した。

近年の同社の重要なテーマである「IN and OUT」。インドアとアウトドアの境界をシームレスに繋ぐ提案であり、同じデザイン(柄)でありながら、アクリル、ポリエステル、コットン、リネンといった異なる素材・組成での展開を提案。用途や設置場所に応じて、自由にチョイスが出来るのはPARÀ社ならでは。


今年はフランク・ロイド・ライトやリナ・ボ・バルディなど有名建築家がデザインした住宅や建築をイメージしたデザインや色、織りを表現した製品が発表され、テキスタイルと建築の関係性も訴求した。
Hield社
英国の高級紳士服地用として高級ウール生地の生産からはじまり、1980年代からに家具分野へと展開。

/中央はHield社のアイデンティティといえるストライプ柄。日本でも紳士服地としては高い人気を保っている

/英国王室にも生地を供給。エリザベス2世(前女王)と、その跡を継いだ国王チャールズ3世のリムジンであるベントレーの後ろ座席には同社の生地を使用。本来、座席はレザーを使用するが、女王は柔らかな肌触りのウール生地を希望されたそうだ。

近年はブランドのさらなる拡大に伴いウールだけでなく、シルク、リネンなどのシアーカーテンのコレクションも展開。
Aquaclean社
スペイン・バレンシア州から出展のAquaclean社は、少量の水だけで日常の頑固な汚れを簡単に拭き取れる独自の加工技術で注目を集め、今や世界的な企業へと急成長を遂げている。


OASISシリーズ。強度があって美しく、手触り感もスムーズなポリアミド(ナイロン)を加工時に静電気を発生させて繊維の毛羽を垂直に植え付けるフロック加工することで表面にはループがないため、不意の引っ掛かりを防ぎ、ペットの抜け毛も奥まで入り込まないので掃除が容易。ペット共生住宅には最適の張地だ。カラーも約50種類豊富なカラーバリエーションを用意。
CREVIN社
繊維産業は環境負荷の大きい産業の一つであり、水の大量消費などがその主な原因。スペイン・バルセロナ近郊から出展のCREVIN社は超ろ過技術により水の約70%を再利用。また、糸の段階からサーキュラーエコノミーを実現するよう努めるなど、資源の無駄を最小限に抑えることを目指している。その考えが具体化している。

地中海の会社らしく自然を想起させるようなテラコッタ、深みのあるブラウン、クリーミーなコーラル、グレーなどトレンドにマッチした意匠性の高さでも来場者の関心を寄せていた。4月から日本のコントラクト市場へ本格参入をスタートしたようなので、サスティナブルな製品の動向に注目したい。

PERFORMANCE+シリーズは二重織技術で高い耐久性を実現。裏生地に使用されている繊維は廃棄素材をアップサイクルすることでリサイクル率を高めている。
Yutes Natural Fabrics社
創業当時は果物を入れるための麻袋の製造から始まったYutes Natural Fabrics社はスペイン、バルセロナからの出展。リネン、ジュード、コットン、ヘンプなど天然繊維に拘った製造をしている。ブランドの核となるリネンに関しては、欧州産で最高級の位置付けとなる長繊維のリネンを仕入れて加工、製品によっては完成後の縮みの防止やソフトな手触り感、染色のクオリティ向上のために糸の状態で洗いの工程を加えるなど丁寧な生産も評判。素朴で張りのある「ざっくりとした風合い」は創業当時の麻袋の時代から一貫していて、今でもストーンウォッシュ風加工を施して天然素材の持つ豊かな表情を忘れないクラフトマンシップを感じるメーカーだ。

リネン100%。

リネンとコットンの混紡。

リネン100%。
Tecnofinish社
コモ湖近郊から初めての出展のTecnofinish社は、PROPOSTEでは数少ない壁紙を展示。織物壁紙のほか、インクジェットプリント、裏打ち用のラミネート加工、樹脂コーティングやFR(防炎・難燃加工)など、テキスタイルに関する多種多様な加工技術を持つスペシャリストである。

同社が得意とする立体成型技術が生かされた壁紙表面はベルベッドのようなスムーズな仕上りで縦のリブとアーチ状の曲線を合わせたアールデコ調のデザイン。生地にスポンジとライナーを貼り合わせ、圧をかけることで、幾何学的なパターンを形成。厚みを持たせることで吸音性もある。意匠性が求められるホテルやレストランの壁面やパーテーションなどに最適。

最新のデジタルプリント技術を駆使し、メタリックインクを精密に重ね合わせる最新のデジタルプリント技術が発揮されたボタニカル柄。光沢のある地に対してマットの緻密な線で構成された絵柄のコントラストが美しい。

大理石のような模様の合間に光沢のある地がゴージャス感を演出。光の角度によって変化するレフレクションが上品さを増している。
■まとめ
新型コロナウイルスのパンデミックが落ち着きを見せてから、およそ3年が経過した2026年。まさに大きな変革期にあることを強く実感させる今回となった。33回目を迎えた歴史ある見本市は、開催当時の「良質なイタリア製テキスタイルを世界へ」というシンプルな目的から、「欧州全域の良質で高い技術と環境を配慮したテキスタイルを世界へ」という機会へ、その役割を変化させている。
世界的にレジデンス市場の勢いが弱まっているいま、これからのテキスタイルメーカーにとってコントラクト(商業施設・ホテル・オフィス)市場への本格的な参入は必然。今回の展示会で多くのメーカーが競うように発表していた高度な加工技術や難燃・防炎、イージーケアといった性能は必然のスペックだ。
しかし、どれほど時代や市場が変わろうとも、変わらない本質がある。それは「高機能性と意匠性(美しさ)の両立」。テキスタイル産業は、他のインテリア・エレメント(家具や建材など)よりも、空間における「美しさ」や「心地よさ」が求められる分野。高度なテクノロジーを背景に敷きながらも、人の感性に響く「美」を追求するテキスタイル産業のリアルな現状を知る機会として、「PROPOSTE」が果たすべき役目は終わっていない。
次回の第34回「PROPOSTE」は、2027年5月4日・5日・6日の3日間、再びコモ湖畔の町チェルノッビオにて開催予定。次の一年でどのような進化を見せてくれるのか、いまから期待したい。
本文・写真(*以外すべて)/北原孝一 Koichi Kitahara(建築資料研究社出版部)
協力/イタリア大使館貿易促進部、Proposte srl、フジエテキスタイル
