「壁の向こう」に希望の光を求めて

ガラスのファサード越しにグリーンの光がゆっくりと明滅する、間口2.9メートル、コンクリート打放しの4階建て。大阪・日本橋に位置する、安藤忠雄設計の住宅だ。竣工は1994年。現在は、施主の金森秀治郎さんによりギャラリー「日本橋の家」として運営されている。

ファサードをよく見ると、ガラスから何かが突き出している。中に入って内側から見ると、それは大きな紙飛行機であることがわかる。紙飛行機がガラスを突き抜け、その先端がガラスの向こう側へ飛び出しているのだ。

4階の一角にある窓から撮った飛行機

「日本橋の家」を舞台に、アーティストであり建築家の郡裕美さんが「身体感覚を覚醒させるようなしかけ」を企てた。題して「壁の向こうへ」(https://www.studio-myu.com/news/archives/4971)。郡さんの作品と、郡さんが教授として指導する大阪工業大学の学生の作品によるインスタレーションだ。

「いま世界は、新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックで閉塞した日々を余儀なくされている。それは物理的な壁ではなく、自分自身や社会がつくる“見えない境界”なのではないか。“その壁を打ち破りたい”という想いを紙飛行機に載せたんです」と郡さんはいう。

 

1階、エントランスから続く白い点線をたどると、白い壁面に自らの影がぼんやりと映る。入り口から入るうっすらとした光による作用だ。その影が床においた鏡面の板にも落ちる。しばらく佇んでいると、ふと影が動いてハッとする。前面道路を通る自動車や人によって、外光が途切れた瞬間に起こる現象だ。

2階にのぼると、ダイニングだったところ。その奥はキッチンや浴室などの水まわりがあり、さらに奥に茶の間があったとのこと(現在、茶の間は床が取り払われて吹抜けとなっている)。手前の道路側は、飛行機が突き抜けるグリーンの空間。ここはもともとリビングで、3層が吹抜けており、「このあたりにテーブルを置いて、階段を椅子代わりにしていました」と、金森さんが当時の暮らしぶりを説明してくれる。「床下や壁には、小さいけれど収納があるんですよ」。とかく住みづらいと評価される安藤建築であるが、生活のための工夫もなされていたようだ。

〈覚醒〉 リビングだったところにグリーンの光が満ちる。

グリーンの光に包まれながら階段を上へ、途中で飛行機を見ながら3階へ。

郡さん手製の吹きガラスにキセノンガスを充填し、高圧の電流を流すことで生まれる稲妻のような光が、ジジジという音とともに放たれる。「茶釜で湯を沸かしたときに発する“松風”みたいでしょう?」と郡さん。目と耳に神経が集中させられる。

そこから扉を開くと、屋根のないエリア。「住吉の長屋と同じ、いったん外に出ないと寝室には行けません(笑)。でも可動式のガラス屋根があるんですよ」といって、金森さんが手動でロープを引っ張り、屋根をかけてくれた。

このフロアでは、主寝室だったところに映像作品がある。正面の壁に、ブラジルの海に向かって歩くひとの映像が流れる。海は遠浅になっており、ふとした瞬間に人が消滅する。地球は丸い。いま見えているものも、ずっと対象物が離れていけばある地点で見えなくなる、それを映像で表している。また床は鏡面になっていて、壁の映像が反転し、ちょっと不思議な図像を結ぶ。

〈Utatane〉 床に置かれた鏡面の微妙な曲面は地球そのものを表しているのかも?

露天になったエリアに戻り、ふたつある階段の一方を上がって、もとの子ども室に入ると、白い線が門型に浮いている。その向こうに小さな棚。果たしてどこから入るべきか? 一瞬迷う。棚に置かれた小さな鏡とあいまって、まるで神域の結界のようでもある。結局両サイドの“透明な壁”に挟まれた中央から入って、棚のメッセージを見て思わず笑む。

〈超える〉 白い糸による結界。彼の世と此の世を隔てているかのよう。

もう一方の階段の先も子ども室だったところで、中央に箱が置かれていた。以前に郡さんが制作した視覚と距離感の関係を見つめる作品。ただし置かれた状況が違っていて、前後が鏡面の壁で、それらに挟まれている。映り込みが永遠に続くしかけなのだが、面が微妙にたわんでいるがゆえに、これまた異次元に放り込まれたような感覚になる。

〈見える?〉 iPhoneの自撮りモードで撮影すると、ますます不思議な世界へ。

すべての作品を体験し終えて、「流転」という言葉が浮かんだ。“めぐる”という感覚。いま逼迫し、がんじがらめになっている現状も、時の流れの中の一瞬にすぎない。ということか。そんなことを思いながら会場を辞すると、日が落ち始めており、ファサードのグリーンの色がいよいよ濃くなっていた。

グリーンの光が「日本橋の家」の存在感を強調する。

開催日程:7月3日~8月1日の土日と大阪アートフェア開催期間(7月18日〜20日)
7/3・4・10・11・16・17・18・19・20・24・25・31・8/1(上記以外の平日は要予約)
開廊時間:15:00〜18:00 入場無料 20名程度で随時入場制限します(入れ替え制)
会場:ギャラリー日本橋の家(大阪市中央区日本橋 2-5-15)
問合せ:スタジオ宙 myu@studio-myu.com tel 06-6131-6768

レクチャー:7/3・18・31(申込みは、https://kori.peatix.comから)

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