徳島大学
理工学部 社会基盤デザインコース
教授 小川宏樹
取材・文/加藤純
コンフォルト2026年8月号 no.210より
徳島大学の工学系教育は1922年の官立徳島高等工業学校設立に始まり、49年に徳島大学工学部となった。2016年に理工学部へ改組し、理学系2コースと工学系6コースを擁する。22年には理工の教育機関として創立100周年を迎え、四国地域の工学教育の中核を担っている。
工学系の社会基盤デザインコースは、従来の土木工学・建築学・防災科学に地球科学を融合した教育プログラムが特徴だ。人々の安全で快適な暮らしや産業・経済活動を支える国土と社会の基盤整備に必要となる多様な技術を修得。構造・材料講座では橋梁や建築物の耐震・耐風設計、防災科学講座では地震・津波など自然災害の防止・軽減や地盤の強度評価、地域環境講座では都市計画・交通計画・景観計画を教育研究する。
現場密着の活動と視点で
実務と研究を架け渡す
小川宏樹さんは、都市計画と建築計画の中間領域を専門とし、住宅地の分布や土地利用、築後数十年が経つ大型団地の再編、空き家問題へと研究の軸を展開してきた。空き家問題については和歌山大学に在籍していた頃から実務連携を深めている。その一つが、一般社団法人ミチル空間プロジェクトとして「空き家相談センターわかやま」を設立し、不動産業者、建築士、工務店と連携して所有者の相談に応じる体制を構築したことだ。和歌山県橋本市では全国でも早期に「空家等管理活用支援法人」の指定を受け、所有者情報や登記、固定資産税、前面道路等の情報共有が可能となり、相談対応の効率化と提案の加速を実現した。10年前に徳島大学に教授として着任してからは、徳島県那賀町で民生委員と同行し、空き家を外観目視でランク分け。不動産活用の可否や危険度を判定し、空き家バンク営業の基礎資料を整備するなど、現場に密着した実践的な活動を推進している。
さらに、小松島市の商店街で空いていたビルを自身で借り、学生とともにDIYでリノベーション。1階は週末限定のカフェを家族が運営し、2階を元美容師やネイリストが予約制でスモールビジネスを始める場として提供。空き店舗活用で新しいコミュニティ形成を後押しする。
地域ごとの特性と課題に
専門知識を備えて取り組む
小川研究室は現在、学部3年生の仮配属を含めると12名ほどの学生で構成され、4年生は約半数が修士課程へ進学する。4年生は卒業研究として論文か設計を選択できるが、意匠設計志向の学生が多いため、ほとんどが設計を選ぶ。地域の実課題に即したテーマに対して、主体的に取り組む姿勢で臨んでいる。
小川さんが学生に期待するのは、法制度・統計・実務に基づく知識を備え、それに裏打ちされた現実的な判断と発言ができる人材となることだ。「徳島県は市街化調整区域での宅地開発が進むなど、規制が緩い側面があります。背景には、農地では耕作放棄地の管理の受け皿が整備されておらず、扱いが困難な状況も関係している。防災上の効果も含めて平時の質の高い建築供給は重要です。一方で、県産材活用では大学・行政・民間の連携も進んできています。今後は県庁や市役所にも研究室から巣立っていく人材が継続的に入っていくことで、大学や企業と行政がより緊密に同じ方向を向いて協働できればいい」と展望を語る。

小松島市で実施された祭り「街あそび」の一環で、研究室では商店街に人工芝の滑り台や地面の落書きコーナーを制作。
都市・建築計画分野における小川先生の活動
空き家対策と官民連携の推進
小川さんの活動は、空き家問題を軸にしながら、実務と研究を横断する点に特徴がある。和歌山で設立した「空き家相談センターわかやま」では、小川さんを含む約4名の専門家チームが解体業者や不動産業者の紹介、コミュニティセンターなどでの出張説明会を実施。地域のリーダーと連携し、具体的な空き家事例について、所有者と現場で解決策を探る活動を行っている。空き家再生の事業スキームとしては、物件を取得・修繕して賃貸化、または借り受けて修繕後に第三者へ貸す、サブリースの仕組みを推進。徳島県小松島市にあるビルを「DIY賃貸借」で活用する小川さんの自宅兼店舗も、空き家活用のヒントとして紹介している。



左/小川さんは徳島の街なかで空き家となっていた築50年の賃貸ビルを借り、店舗をもつ住まいとしている。中/研究室の学生の現場実習として、DIYでリノベーション。右/1階の広々としたスペースは、週末限定のカフェとした。



上右/小川さんは徳島の街なかで空き家となっていた築50年の賃貸ビルを借り、店舗をもつ住まいとしている。上左/研究室の学生の現場実習として、DIYでリノベーション。下/1階の広々としたスペースは、週末限定のカフェとした。
空き家調査と活用可能な物件判定
空き家について、建物や敷地の状態を把握するために現地調査し、売却・賃貸など今後活用可能な物件かどうかを判定する。徳島県那賀町平谷地区では、「なか地域価値創造協議会」と地域住民によって事前に選出された空き家候補に対して、小川さんの指導のもと、小川研究室の大学院生2名が調査を行った。この地区では倒壊のおそれのある「ランク 4・5」や「判定不能」に該当する物件が4割を占め、長期間空き家の状態が継続している建物の劣化が進んでいる状況が明らかになった。

外観目視での調査により、屋根・外壁・サッシなど建物の状態や、庭木の状態・雑草の繁茂・ごみ・動物の侵入など敷地の状態をシートに記録。6段階のランクのうちどこに分類されるかを判断・判定し、傾向を分析した。
公共施設の総合管理と都市計画の統合
公共施設について小川さんは、場当たり的な更新を避け、土地利用・都市計画の観点を組み込み、中心市街地に必要な機能は費用がかかっても更新すべきと提言。総務省の資産台帳・更新費試算に基づき、解体・売却、更新・新築、長寿命化改修、合築・複合化の選択肢から最適化を図る。小松島市立の学校再編では、既存校舎の耐用年数を踏まえ、5つの小学校を段階的に統合するタイムラインを設定。人口分布や市街化調整区域の整合性を考慮した再編を提案した。自治体との信頼関係を築き、8年かけて新校舎建設が進み、再来年の開校を目指している。

小学校の分布や0~14歳人口の分布などを示し、小学校再編時の通学路の安全確保や、都市計画や建築計画もあわせて検討。既存校舎の一部ではこども園・中央公民館の一体的な確保を提案し、防災拠点や居住誘引の役割をもたせる。
地域への関心が高い 学生の設計活動


左/小松島南IC付近の「道の駅」を卒業設計で計画。地元の特産品をテーマにした農業体験施設や食品加工場を備えた、地域経済のハブとなる施設を提案。右/建築サークルでは、轟神社に「マムシ注意」の看板を企画。制作・設置まで担当した。

学部生のときは建築サークルに参加し、模型製作、BIM活用、グループでの住宅設計コンペなどに、楽しみながら取り組みました。現在は、個人的に好きだった徳島市の万代町を対象に、港湾倉庫群のリノベーションによって飲食店やジムなどが集積し新たな賑わいを生んだエリアについて、計画区域のみならず周辺地域にもたらした波及効果や変化を調査しています。


左/卒業設計「三津浜リビルド ~ヨソ者と地元住民の協働を目指して~」の建物外観のパース。物流拠点として栄えた愛媛県松山市三津浜地区で、持続的に構築・更新していく商店街を提案。右/現地で得た要素を抽象化・再解釈し計画した。

常に「建築を通じて人や社会に寄り添う」ことを軸に据え、学外コンペにも積極的に取り組み、幅広い用途の設計に挑戦してきました。現在は、地方自治体で所有者と利用希望者をマッチングする「空き家コーディネーター制度」を用いた流通支援に関する研究をしています。ゼネコンの意匠設計職に就職予定で、社会と人に愛される建築空間を創造する人材を目指します。


左/卒業設計では、徳島駅近くに都市型リゾートホテルを計画。カフェ・宴会場・レストランなど外部利用も想定した機能を集約。右/ホテル内広場に市町村ごとのパビリオンを設置することで、広域観光の起点となることを目指した。

進学先の大学を調べていたときに小川先生のことを知り、建築を学ぶために徳島大学を選びました。小川研究室のゼミでは、毎回のように自分に刺さる学びがあります。そして設計課題や卒業設計では、制度・法律・構造などに造詣が深い小川先生の指導によって、自分が思い描く発想を現実に着地させてくれます。これからも悔いなく、したいことをしていこうと思います。


左/卒業設計では、神戸市の部活動の地域移行に着目し、中学生の居場所と地域文化・マイナースポーツを包括する施設計画をテーマに選定。右/伝統文化や専用設備が必要な活動を複数集積し、約19,000㎡規模の複合施設を構想した。

小川研究室では法律や構造など設計の実務的な側面で示唆に富む指導が行われています。自身の苦手分野を強化できる点に魅力を感じて、この研究室を選びました。小川先生は実務的で現実的な指導をする真面目なイメージがある一方で、交流会では場を盛り上げるなど、お茶目な一面もあります。先生のリノベーションしたカフェも、温かい雰囲気が印象的でした。

1975年徳島県生まれ。99年三重大学工学部建築学科卒業、2001年同大学院工学研究科博士前期課程建築学専攻修了。04年同大学院工学研究科博士後期課程システム工学専攻修了。岐阜市立女子短期大学、秋田県立大学、和歌山大学などを経て、16年より現職。共著書に『コンパクトシティの拠点づくり 魅力的な場をつくる都市計画とデザイン』(学芸出版社)など。
徳島大学 理工学部
徳島市南常三島町2-1 tel 088-656-7304(代表)
https://www.tokushima-u.ac.jp/st/
コンフォルト2026年6月号 No.209より
