2022年5月17日に、東京・二子玉川の蔦屋家電で公開クロストークが開催されました。主催は全国タイル工業組合。「タイル名称統一100周年」を記念したプロジェクトで、「#TOUCH THE TILES」を合言葉に「未来のタイル」を模索するイベントのひとつです。
語り手のひとりは、グラフィックデザイナーとしてプロダクトの開発からパッケージまで手がける佐藤卓さん(https://www.tsdo.jp/)。そしてLIXIL Water Technology Japanのタイル事業部 タイル商品部長であり、全国タイル工業組合理事長の木野謙(ゆずる)さんです。モデレーターは横里隆さんが務めました。
日本におけるタイルの歴史
まずは、「タイル名称統一100周年」について、木野さんが解説しました。
「エジプトでおよそ4500年前に王墓を装飾したタイルが世界をめぐり、日本には飛鳥時代に敷瓦(しきがわら)や腰瓦などとして伝来しました。時代が下って、英国からレリーフとしてのタイルが伝わり、レンガやテラコッタなどが海外からもたらされました。当時これらの建築を彩るやきものは、敷瓦や平瓦、貼付煉瓦や化粧煉瓦などさまざまな名称で呼ばれ、施工する職人を困らせていたんです。そこで1922年4月12日に東京・上野で開かれた平和記念東京博覧会に際して開かれた全国タイル業者大会によって、『タイル』と名称を統一しました。今年はそれから100年というわけです」(コンフォルト183号でも詳細な歴史が紹介されています)
多様性のあるタイル
佐藤さんは、幼少期のタイルの記憶を披露。
「練馬区石神井で育ったのですが、家の風呂は薪をくべて沸かしていました。それが改修でタイル貼りになったときに景色ががらりと変わって……衝撃的でした。また、当時はまだ空き地もあって、いまでは許されませんがタイルが大量に廃棄されていたんです。それが勾玉(まがたま)のような形で、いろんな色があって、しかもグラデーションでふわっとしていて。宝物に見えて、たくさん持ち帰ったことを覚えています」
その後、佐藤さんはセラミックバレー美濃(https://ceramicvalley.jp/)のクリエイティブ・ディレクターとして、美濃のやきものの魅力の発信に尽力します。
「地元のみなさんに『美濃焼には個性がない』と言われました。でも志野焼や織部焼など伝統のやきものがあり、一方で100均の器もつくるなど、とても多様化している。そこで着目したのが、日本国内の90%を生産しているラーメンどんぶりでした。日本の食文化として世界に知られているラーメンはプロモーションのアイテムとしてうってつけ」
2014年には、各界で活躍するクリエイターがデザインを手がけた「美濃のラーメンどんぶり展」(松屋銀座 デザインギャラリー1953)を開催。それが海を渡って、ロサンゼルスでの「The Art of the Ramen Bowl」(JAPAN HOUSE Gallery、2022年3月18日〜7月5日)につながっています。
そうした動きの一方で、タイルの需要は低下しつつあります。木野さんは「タイルは機能性に優れ、デザインも多種多様で、さまざまな空間に使われてきましたが、生産量は往時の7分の1ほどとなっています。浴室はユニットバスになり、トイレも壁紙やシート材にとって替わられました。全国タイル工業組合では“BEYOND 100 YEARS BEYOND TILE”と標榜していますが、これまでにないタイルの使われ方も提案していき、タイルの価値を高める文化を醸成していかなければ。ラーメンどんぶりのような入り口をタイルにもつくる必要がある」と力強く語りました。
手技とテクノロジーのかけ合わせ
地下鉄銀座駅から松屋に向かう通路の改装で、佐藤さんが採用したのはタイルでした。松屋150周年を記念したプロジェクト(2018年〜)で、「デザインで生活を豊かにする」という企業パーパスを示すものでした。
「『MATSUYA DESIGN』というロゴをタイルでつくりました。列柱にはそれぞれ数字をつけたのですが、それもタイルで、しかもタイル職人さんが一つひとつ手で割ったものなんです。壁面を覆うタイルも表面がゆらゆらとしたものを焼いてもらいました。大きなポスターを貼れる額縁も、アーチの部分も、みんなタイルです」(https://www.tsdo.jp/detail.html?work=338_matsuyametroad)
こうした手の痕跡が残る、有機的なラインが入ると印象が変わると佐藤さんは言います。「現在は、コンピュータで簡単に、たとえば1㎜の間に10本の線も描けるし、平滑な面も出せます。でもそういう時代だからこそ、手で描いた線に魅力を感じるんですよね。昔のビルの外壁に貼られたタイルでも、ほんとうは色むらをなくしたかったけれど、当時の技術ではできなかった。それが味わいになっています」。
木野さんもそれに深くうなずきます。「100年前の建築でもタイルは輝きを放っています。ライフサイクルが長い、サステナブルな材料ともいえます。それらを大切にしながらもノスタルジックにひたるだけでなく、タイルの可能性を見つめ、エンドユーザーがタイルと暮らしてみたいと思えるような魅力あるタイルを生み出していきたいと思っています」。
「タイルに関しては素人だけど」といいつつも、佐藤さんがつくり出した空間はタイルの本質が表出し、新鮮さをまとっていました。また、幼少期のタイルにまつわるエピソードは微笑ましく、そのときの様子を容易に頭に描くことができました。そして自分の記憶も思わず探りました。形状も色も、機能も多種多様なタイルは100年以上もの間、人びとの暮らしに当たり前のようにあったのです。
カーボンニュートラルやSDGsなどと謳われ、人類が直面している環境問題に関して、木野さんが「ライフサイクルが長い」と語ったように、製造時のエネルギー問題が解決すればタイルは多くの課題をクリアしてくれるでしょう。そして、現代のタイルが未来でも当たり前にあって、人びとを魅了するに違いありません。4500年以上も前のタイルが、いまでも輝きを放っているのですから。
(編集部/阪口公子)
Information
蔦屋書店巡回展
タイルに関するアイテムを揃えたセレクトショップ「TOUCH THE TILES」が全国の蔦屋書店を巡回します。100周年記念ビジュアルブックをはじめ、アーティストとコラボしたタイルやアクセサリー、器などが販売されます。
◎二子玉川 蔦屋家電/5月17日(火)〜29日(日)
◎代官山 蔦屋書店/6月6日(月)〜19日(日)
◎梅田 蔦屋書店/6月27日(月)〜7月10日(日)
*六本松店、函館店でも開催予定