2022年7月11日に、コンフォルト編集部にてオンライントークイベントを開催しました。8月号発売記念『古くて新しい「茅葺き」のしごと』と題して、茅葺き職人で、茅葺きの普及に尽力されている相良育弥さん(くさかんむり代表)をお招きし、茅葺きの伝統と今後の可能性についてお話を伺いました。相良さんは、8月号の表紙「西海園芸 花西海」の茅葺きも手がけています。
そこには、茅葺きのイメージががらりと変わる、沢山の新しい発見と出会いがありました。
茅葺きのイメージ
「茅葺き」と聞いて私は、白川郷の茅葺き屋根や昔話に出てくるおじいさんやおばあさんの暮らす家が思い浮かびました。多くの方が伝統的な屋根の象徴として頭の中に浮かぶのではないでしょうか。
まず衝撃を受けたのが、相良さんが手がけた美容院「ilou」。壁に茅葺きを使うという発想はなかったので、屋根だけではない茅葺きの使い方があるのかと驚きました。これまでの私の中のイメージは、この段階で打ち破られていました。フラワーアーティストの川崎景太さんとのコラボレーションによる、野に咲く花が風に揺れる様子を表現しているオブジェでは、アートの世界とも通じるのか! と茅葺きの可能性を思い知らされました。
ヨーロッパの茅葺き
日本では伝統建築としての茅葺きのイメージが強いですが、ヨーロッパをはじめとする茅葺き先進国では現代建築で茅葺きを採用し、画期的な建築が建てられていることを知りました。
印象的だったのは、デンマークのワッデンシーセンター(Wadden Sea Centre)。この建築はワッデン海の自然と歴史のための施設で、屋根もファサードも茅葺きという現代建築です。「自然を題材にした建築なので、仕上げ材に自然のものを使うのが当たり前でしょ。という発想が単純に羨ましい」と言う相良さんの言葉からは、日本とデンマークの建築や環境に対する考え方についての大きな違いに気づかされます。
相良さんの描く茅葺きと日本の茅葺き
阪神・淡路大震災が百姓(=生きていくために必要な100個の技を持っている人)になりたいと考えるきっかけであったと言う相良さん。茅を刈り取り、屋根を葺き、役目を終えた古茅を燃やし、そのススが植物の栄養になり大地を育む茅葺きのサイクルに惹かれたと言います(コンフォルト186号では茅葺きや民家を調査・研究する安藤邦廣さんにも茅葺きのサイクルを中心にお話を伺っています)。
「そこに生えている植物を使いこなすのが職人の技、そこに生えている植物をその土地に還すのが茅葺き」
今回のイベントで、私が一番印象に残った言葉です。日本でも輸入を行う職人がいることを受けての言葉でしたが、日本の茅葺きを愛しているからこその重みと、相良さんの茅葺きへの強い思いを感じました。
茅葺きという選択肢を広めるために
茅葺きの注目度が高まっていることについて、「サステナブル、SDGsなどの社会的な動きもあると思うが、科学的証明はできないけれど、茅葺きそのものが個人の命の範疇を超えたところで響き合っているのではないか」と相良さん。人々の長い歴史にとって記憶の根底にあるものだからこそ、惹かれるという考えに共感しました。
さらに、茅葺きの芸術化についての視聴者からの質問には、「茅葺きに使われる漢字はくさかんむり。芸術、芸能の芸の字もくさかんむり。芸術、芸能の持つブレイクスルーする力が見せてくれるとんでもない切り口と合わさると、新しいものが生まれるのは素敵だと思っている。ただ、新しいものになるほど伝統を濃く入れている。芯のところは譲れない」と返答。伝統と新しさを融合し、伝統を守りながらも現代に寄り添わせていく相良さんの姿勢を、ここでも垣間見ることができました。
茅葺きが育む人のつながり
日本の伝統としての茅葺きは地域の人が協力して葺く、結(ゆい)と呼ばれる相互扶助が存在していました。かつては掟のような役割だった結と茅葺きの現代的な関係について、「現代は掟でなく、ワークショップを通して茅葺きの辛いところをみんなでシェアするなど、形を変えた現代的な結になり広まっている」と言います。
茅葺きは自然に還すことのできるサステナブルな建材であるだけではなく、人が手を加えなければ残すことのできないものであり、そのサイクルで、人と人との豊かな輪までもを育む古くて新しい伝統であると感じると共に、茅葺きの奥深さを味わうことのできるイベントでした。
現在、こちらから見逃し配信中です。ぜひご覧いただき、実際の相良さんの言葉をお聞きください。
(宮下羽未)