タイルが微発光? 律動のプロジェクションマッピング

美術家・野老(ところ)朝雄さんと、建築デザイン事務所 noizが、2020年のバーチャル展覧会に次いでタッグを組み、INAXライブミュージアム「土・どろんこ館」で、展覧会 DISCONNECT/CONNECT【ASAO TOKOLO×NOIZ】を開催しています。

WEBコンフォルトの展覧会情報でもご案内しています。しかし、緊急事態宣言下、まだ行くことが難しい方がほとんどかと思います。私たちは『コンフォルト』でその展覧会と経緯をレポートする機会を得て、撮影にうかがいました。詳しくはいずれ、次号(180号、7月5日発行予定)の誌面でご覧いただくとしても!

「これはできたら、ぜひ会期中に体験していただきたい」と思い、やや前のめり気味に、展覧会の概要をお伝えします。

会場ZONE1  まんなかに光を受けて鎮座するのは、台座の回転する「RHOMBUS WORKS [JAGGED]」、また回りを取り巻く曼荼羅は野老紋様「INTERTWINED」のタイルパネル。撮影/梶原敏英

まずZONE 1です。
野老さんは、図形で平面を隙間なく埋め尽くす「タイリング」の世界で幾何学による無限の連続性・展開性を、「野老紋様」として発表しています。最近では、東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムが広く知られました。一方のnoizは「コンピューテーショナル・デザイン」の分野で建築界をリードし、デザインの可能性を広げています。
その二者が、「タイリング」つながりから、タイルの物質としての個性に注目し、「LIXILものづくり工房」にて野老紋様をタイルで制作。それがこれらのタイル作品です。
真ん中に鎮座してゆっくり回転しているのは「RHOMBUS WORKS [JAGGED]」です。これは3タイプの菱形、山形ラインの向きの違うものを含めても、計5種の菱形でできています。驚くことに、シンメトリーにもランダムにも膨大な数の組み合わせがあり、同じ12角形ができるのです。そしてどのタイルも側面の形状が同じ! 釉薬は1種なのですが、尾根で薄く、谷で濃く色合いを変え、さらに光を受けて複雑な表情を見せながら回っています。なにか神々しささえ感じます。野老さんは、このタイルのできあがりを見て、「とろけていた」(noiz共同主宰・豊田啓介さん)そうです。

ZONE 2 「STEP」という作品が展示されています。 右手の「INTERTWINED」紋様のタイルピラミッドの1段目に腰掛け、左手の白いピラミッド状の構造体へのプロジェクションマッピングを見るのがおすすめ。撮影/梶原敏英

さて、これ以上詳しくは次号にゆずり、ZONE2に急ぎます。実はさきほどから1秒1拍のリズムを刻む音楽に、すっかり心が掴まれているのです。その道では知らない人のない原摩利彦さんの構成した音楽。
ZONE2の両隅に立ち上がるのは、タイルのピラミッド状の構造体。瑠璃色の野老紋様のピラミッドの1段目に腰掛けて、向かいの白いピラミッドを見ていると、いよいよプロジェクションマッピングが展開! 滝がゆっくり落ちるように、風が渦巻くように、若草が萌えあがるように、微細な血管を血液が勢いよく巡るように、大きく、小さく、上に、下に、緩急をつけて、野老紋様が通り過ぎていくのです。あっと言う間の6分半。いや、実はうっかり3回見てしまい、20分近くなにも考えず座っていました。
なんでしょうか、この感じ。脳がシャワーを浴びたようなほわっとした感じ。居合わせた小さい男の子は、ずっとリズムに合わせて身体を動かしていました。「没入型の体験」って、こういうことでしょうか?

みずからもすっかり没入する野老さん(左)とnoizの豊田さん(右)。撮影/梶原敏英

もちろん野老さんと豊田さんも、感慨深そうに繰り返し見入っています。豊田さんはさっそくSNSにアップ中。コンピュータで仕事をする二人が、タイルというモノに興味をもったのは、どうしてなのか。そのあたりのお話はぜひ次号の誌面で(しつこい……)。
今回ヴィジュアルプログラミングを担当した白木良さんも会場を訪れていて、野老さんと細かい手直しの打合せを始めました。修正するところなんてなさそうですが、アーティストたちには違うところが見えているのですね。
豊田さんは、「白いタイルは、実はごく一般的なLIXILの製品。それがプロジェクションマッピングでは、自ら微発光しているように見えるのが不思議です。釉薬のガラス質の効果でしょうか。硬質で平滑であっても、やきものだからゆらぎがあるからか。タイルへのプロジェクションマッピングが、こんなに面白いとは思いませんでした」。私が白いタイルなら、「こんな日が来るなんて」と喜びに頬を染めたことでしょう。

さて、もう一つ楽しいことは、プロジェクションマッピングが、見ている人にも映り込むこと。とくに白い服を着ている人は、ザ・野老紋様になれるほどです。知っていたら、ぜったい私も白い服を着てきました。みなさまにもぜひ、白い服で行かれることをおすすめします。

 

野老さんが直感的に「なんかこれ、ぜったい正しいんだよねー」と言う方向を一緒におもしろがっている豊田さん。その豊田さんによるコンピューテーショナルな展開から、また多くのイメージがふくらんで、どんどん紋様を生み出す野老さん。希有な二人の、希有なエポックとなるようなこの展示。できるなら、もう一度見にいって、ゆっくり時間を過ごしてみたい、と思いました。 (編集部 豊永)

information

「DISCONNECT/CONNECT 【ASAO TOKOLO×NOIZ】幾何学紋様の律動、タイリングの宇宙」
会期:2021月4月24日(土)~2021年10月12日(火)
会場:INAXライブミュージアム「土・どろんこ館」企画展示室(愛知県常滑市奥栄町1-130)
休館日:水曜(祝日の場合は開館)
観覧料:ミュージアム共通入館料にて観覧可(一般:700円、高・大学生:500円、小・中学生:250円)
※新型コロナウイルス感染症対策を実施、スケジュールが変更される場合あり

監修:野老朝雄、noiz
紋様制作:野老朝雄
展示デザイン:noiz(豊田啓介、田頭宏造、近藤有希子)
ヴィジュアルプログラミング:白木 良
音楽:原 摩利彦
グラフィック:小木央理
タイル制作:LIXILものづくり工房
協力:ニチレイマグネット株式会社
主催:INAXライブミュージアム
会場ホームページ:https://livingculture.lixil.com/ilm/

LIXILのものづくりについてのトピックスは、こちらからご覧になれます。

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