*コンフォルト192号より抜粋・一部改変 取材・文・写真/室脇崇宏 Takahiro Murowaki(フジエテキスタイルクリエイティブディレクター) コーディネート・写真(*)/北原孝一 Koichi Kitahara(建築資料研究社出版部) 協力/イタリア大使館貿易促進部、Proposte srl
カーテンや家具のテキスタイルの展示会「プロポステ」が、4月18日から3日間、イタリア、コモ湖畔の町、チェルノビオで開催された。会場は18世紀に建てられたヴィラ・エルバの庭園の一画にあるコンベンションセンターで、今年は1993年の初開催から数えて30回目の節目にあたる。
インテリアテキスタイルにおいて私が「サステナブル」という観点を本格的に意識したのは、天然繊維に難燃性を付加することができ、生分解が可能であると打ち出したイタリアの技術「COEX」が登場した2014年である。
それから「サステナブル」の技術は少しずつ歩みを進め、2019年から20年初頭には、かなり多くのmill(工場、機屋)がリサイクルポリエステルを中心とする製品を発表し始めた。しかし、インテリアの分野に求められる機能性と意匠性を両立させることは容易ではなかった。ポリエステルを中心としたリサイクル糸の種類は少なく、難燃性のあるリサイクル糸となると圧倒的に糸種が限られるからだ。
今後はさまざまなリサイクル糸の開発がキーになっていくだろうと考えて臨んだ今年のプロポステでは、意匠性の幅が明らかに広がっていた。以前は素材の選択肢が少なかったが、価格の問題は残るにせよ、かなりの範囲でデザインの意図が実現できるようになってきた印象だ。
展示会全体のプロダクトを見て強く感じたのは、「サステナブルなテキスタイルは何か」と考えたときの解釈の広がりである。
ウールやコットン、カナパ(ヘンプ)など天然素材の再評価、化学繊維の特性の見直しと再解釈も行われていた。たとえば染色をしないブリティッシュウール100パーセントのテキスタイル。豊かな質感もさることながら、あえて染色工程を省いて二酸化炭素の排出を削減し、羊が持つ自然な色のミックス感を楽しむなど、アースカラーがトレンドになる動きにつながるように感じた。
ポリエステルで印象的だったのは、Vanelli社のクリエイティブディレクターで、ヘルシンキにあるアールト大学の教授であるマーリット・サロライネンとのちょっとした会話だった。彼女は新作を「カチオンを使ったサステナブルなテキスタイルです」と説明した。海外の工場ではあまり見かけないカチオンポリエステルだが、そのなかの常圧可染カチオンは、95〜100度の低温で染められる。そのため二酸化炭素排出量を削減できるという。
もともと、通常のポリエステルと交織し、温度差を利用して先染めのような色のミックス感ある仕上がりを表現するのに使用されるカチオンポリエステルが、サステナブルの価値観に組み込まれることに驚いた。
じつはこの素材を使ったものづくりは、日本が最も得意とする分野である。このような視点を持つことで、高いクオリティーのサステナブルテキスタイルをつくれる可能性は十二分にある。日本と海外の今後の展開を注目していきたい。