テキスタイル見本市「プロポステ2023」レポート

コンフォルト192号より抜粋・一部改変
取材・文・写真/室脇崇宏 Takahiro Murowaki(フジエテキスタイルクリエイティブディレクター)
コーディネート・写真(*)/北原孝一 Koichi Kitahara(建築資料研究社出版部)
協力/イタリア大使館貿易促進部、Proposte srl

カーテンや家具のテキスタイルの展示会「プロポステ」が、4月18日から3日間、イタリア、コモ湖畔の町、チェルノビオで開催された。会場は18世紀に建てられたヴィラ・エルバの庭園の一画にあるコンベンションセンターで、今年は1993年の初開催から数えて30回目の節目にあたる。

会場入口。同時期にミラノ中心地で開催されていたサローネの巨大なフィエラ会場とは違いグランドレベルの建物で、開口部からは庭園や湖畔が望め、オーガニックでフレンドリーな雰囲気に包まれていた。*

インテリアテキスタイルにおいて私が「サステナブル」という観点を本格的に意識したのは、天然繊維に難燃性を付加することができ、生分解が可能であると打ち出したイタリアの技術「COEX」が登場した2014年である。

それから「サステナブル」の技術は少しずつ歩みを進め、2019年から20年初頭には、かなり多くのmill(工場、機屋)がリサイクルポリエステルを中心とする製品を発表し始めた。しかし、インテリアの分野に求められる機能性と意匠性を両立させることは容易ではなかった。ポリエステルを中心としたリサイクル糸の種類は少なく、難燃性のあるリサイクル糸となると圧倒的に糸種が限られるからだ。

今後はさまざまなリサイクル糸の開発がキーになっていくだろうと考えて臨んだ今年のプロポステでは、意匠性の幅が明らかに広がっていた。以前は素材の選択肢が少なかったが、価格の問題は残るにせよ、かなりの範囲でデザインの意図が実現できるようになってきた印象だ。

入場ゲートの先にある円形の展示スペースには出展社のサンプルが並ぶ。*
リサイクルポリエステル100%で防炎機能を持った、色彩豊かな色糸を使用した椅子張り地。

展示会全体のプロダクトを見て強く感じたのは、「サステナブルなテキスタイルは何か」と考えたときの解釈の広がりである。
ウールやコットン、カナパ(ヘンプ)など天然素材の再評価、化学繊維の特性の見直しと再解釈も行われていた。たとえば染色をしないブリティッシュウール100パーセントのテキスタイル。豊かな質感もさることながら、あえて染色工程を省いて二酸化炭素の排出を削減し、羊が持つ自然な色のミックス感を楽しむなど、アースカラーがトレンドになる動きにつながるように感じた。

タンブラーやシワなどの加工をしてムラ感をつくったり、明彩度豊かな色糸を細かく織り交ぜて表現していたり、アースカラーの出し方にも工夫が見られる。
豊かな表情の意匠撚糸と伸縮性のあるポリウレタン繊維を交織することによって、どんな形状にもフィットするストレッチ機能を持つ椅子張り地。*
チークで製作されたアウトドア家具の張り地はヘンプ100%。化学肥料や農薬を必要とせず、少しの水で早く育ち、耐久性にも優れるヘンプは、サステナブルやアウトドアの観点から再注目されている。

 

ポリエステルで印象的だったのは、Vanelli社のクリエイティブディレクターで、ヘルシンキにあるアールト大学の教授であるマーリット・サロライネンとのちょっとした会話だった。彼女は新作を「カチオンを使ったサステナブルなテキスタイルです」と説明した。海外の工場ではあまり見かけないカチオンポリエステルだが、そのなかの常圧可染カチオンは、95〜100度の低温で染められる。そのため二酸化炭素排出量を削減できるという。

もともと、通常のポリエステルと交織し、温度差を利用して先染めのような色のミックス感ある仕上がりを表現するのに使用されるカチオンポリエステルが、サステナブルの価値観に組み込まれることに驚いた。

じつはこの素材を使ったものづくりは、日本が最も得意とする分野である。このような視点を持つことで、高いクオリティーのサステナブルテキスタイルをつくれる可能性は十二分にある。日本と海外の今後の展開を注目していきたい。

 

難燃性のあるリサイクルポリエステルを100%使用した遮光生地。極力水を使用しないデジタルプリントによって、鮮やかなカラーリングを提案。
高い難燃性を持つポリエステル糸、トレビラCSのリサイクル糸でつくられたケミカルレース(ベースクロスを溶かし刺繍部分のみを残す技術)。

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