風を食べる生命体、大阪初上陸「テオ・ヤンセン」展へ

文・写真/北 華恵

 

先日、大阪南港ATC Galleryで9月25日(日)まで開催されている「テオ・ヤンセン展」に行ってきました。大阪で出展されるのは今回が初のことです。

昔に見たCMがうっすらとフラッシュバックし、何のコマーシャルだったのか思い出せないままモノレールに乗り、静かに揺られながら会場へ向かいました。

 

テオ・ヤンセンは、オランダのスフェベニンゲンの出身。「現代のレオナル・ド・ダヴィンチ」といわれているアーティストです。デルフト工科大学で物理学を専攻し、1975年に画家へ転向。1990年より風のエネルギーで動く「ストランドビースト」の制作を始めました。

ストランドビーストの誕生は、オランダの海面上昇問題がきっかけでした。砂丘をつくることで海岸を守る砂浜の生命体から着想したのです。その名前は、オランダ語でストランド=砂浜、ビースト=生命体からつけられました。各作品名には、アニマル(動物)とマーレ(海)を組み合わせた「アニマリス」が冠されています。

 

今回は、日本初公開も含め10作品以上が展示されており、最大15mを超えるストランドビーストにも出会えます。

「アニマリス・リジデ・プロペランス」(1995年)

会場へ入るとまず、初期に制作された「アニマリス・リジデ・プロペランス」が現れました。風でプロペラを回転させて横へ歩行するビーストです。ただしプロペラが重く、長い時間を歩くことはできませんでした。

 

ビーストの体はプラスチックのチューブからできています。生命体をつくりたいヤンセンは、自然界に存在する昆虫や動物、人間の構造をビーストの範としており、生物の身体がたんぱく質からつくられているように、1種類の素材で作品を制作することに決めたそうです。安価で手に入りやすいプラスチックのチューブに魅了されたともいいます。その加工には木型を用いています。チューブをヒートガンで熱して、パーツごとの木型で固定し形成しているのです。

加工に使うパーツの木型

また、ヤンセンは、1991年から1993年にかけて、ホーリーナンバー(聖なる数)というプラスチックのチューブの長さと位置関係を割り出し、13の基礎となる数字を見つけ出しました。それ以前のビーストは、仰向けの状態で脚を動かすだけで立つことすら困難だったそうですが、ホーリーナンバーにより滑らかな歩行を手に入れたビーストはのちに進化していきます。

*ビーストは、進化の時期ごとにラテン語由来の名称で分類されています。ビーストが生まれるまでの仮想の時点が前グルトン期、身体をうねらせるヴァポラム期、足で地面を押したり、キャタピラによって前進するブルハム期といった具合です。

 

「アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス」(2006年)

体長7.5mある大きな「アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス」は、展示されているビーストの中でも多様な機能を持っています。

ペットボトルが取り付けられたビーストの足の部分

このビーストは、フレームからぶら下がっているペットボトルの重さでバランスを保っています。また空気を蓄える「胃袋」の役目を果たします。帆や羽が風を受け止めペットボトルへ空気が流れ込む仕組みで、圧縮された空気が運動エネルギーに変換されて、風が吹かない時でも歩行が可能となりました。

水を感知するセンサー

ウレタンチューブは、体中に空気を送るための管となり駆動を助けます。さらに水を感知するセンサーの役割も担っています。体から垂れているチューブから水が入ると内部の圧力が変化してビーストの動きは止まり、水辺から遠ざかるように逆方向へ移動します。これは、水辺などのやわらかい場所を歩くと転倒する恐れがあるため、危険を回避するための機能です。

 

「アニマリス・オルディス」(2006年)

入り口から少し進むと、昔に見たビーストがいた! と喜んでいたのですが、違うようでした。ちなみにこちらは、自動車メーカーのCMのために制作された「アニマリス・オルディス」。この作品のみ実際に手で押して動かす体験ができます。

 

 

襟巻きのような帆をもつ波形の体をした「アニマリス・ウミナミ」は、キャタピラ型のビーストです。脚を内側に、車輪のような形に丸めてたたむことができます(帆は分解できる)。

「アニマリス・ウミナミ」(2017年)

 

「アニマリス・ミミクラエ」は、「アニマリス・ウミナミ」と同じ種類のキャタピラ型のビーストです。

「アニマリス・ミミクラエ」(2019年)

 

強風から身を守るため杭を打つもの、尻尾を振るもの、帆をはためかせるものなどの機能を備えたビーストもいました。映像で見るビーストは、まさに生き物だ! と思えるほど動きは滑らかで機敏です。その飽くなき探究に驚嘆させられました。

テオ・ヤンセンが生み出した風を食べて動く人工生命体は、昆虫のようにも恐竜のようにも思える巨大な生物で、一度見たら忘れられません。「ビーストは砂浜でしか生きられない」とヤンセンは言います。いつかオランダの砂浜でビーストが過ごす奇妙な世界を見てみたいなと思いました。今後もビーストがどのような知能を得ていくのか楽しみです。

 

Information

テオ・ヤンセン展

会場 大阪南港ATC Gallery(ITM棟2F)

住所 大阪市住之江区南港北2-1-10

会期 2022年7月9日(土)~9月25日(日)

開館時間 10:00~18:00(最終入場17:30、会期中無休)

問合せ先 tel 050-5542-8600(ハローダイヤル)

https://www.mbs.jp/theojansen-osaka/

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