Reports テキスタイル見本市「PROPOSTE(プロポステ)2025」レポート Kimie Tada2025年7月22日2025年7月22日 本文/北原孝一 Koichi Kitahara(建築資料研究社出版部)協力/イタリア大使館貿易促進部、Proposte srl PARA社の展示。 TORRI LANA社の展示。 景勝地としても有名なイタリア北部、コモ湖の西岸に位置する町、チェルノッビオで、5月6日〜8日、テキスタイルの見本市「PROPOSTE2025」が開催された。今年も舞台は、建築家マリオ・ベリーニが設計した、1988年竣工のコンベンションセンター。18世紀後半に建てられた修道院を、19世紀、製薬業で財を成したエルバが別荘として改修した「ヴィラ・エルバ」の庭園内にある。風薫る新緑を通り抜け、樹齢200年以上とされるプラタナスの森を横目にたどり着いたその会場は、鉄骨とガラスの19世紀半ばの建築、いわゆるグラスハウスからインスピレーションを受けてデザインされただけあって、曇りの日であっても採光が十分で、展示フロアを明るく演出してくれる。 馬術の国際大会が開催されたこともあるという庭園には、樹齢200年以上のプラタナスの木々が清々しい緑陰を提供する。 光と結婚の女神ユーノ像が微笑むヴィラは、日本からも結婚式場として利用する客がいるそうだ。 入場ゲートを過ぎると昨年までの雰囲気と違う事に気付く。ゲートから展示ブースへのアプローチが容易になった。PROPOSTE統括ディレクター、マッシモ・モジエロ氏は、「参加企業から円型ホールでの展示希望が増え、入場から直接ブースへ合理的にアプローチできるように配置してみました。例年と違うトライアルだね」。この試みは出展社側からは好評でイタリアのほか、ベルギー、ドイツ、英国、フィンランドから新たな出展企業を迎えることになった。今回は、78社13か国が出展している。 会場のすぐ前にはコモ湖が広がる。 会場入り口。2025年は、サウジアラビアからの来場者が昨年に比べ急増したようだ。 糸や織り、素材やカラーで、「ソフト」感を表現 さて、今年も会場から読み取れたトピックのレポートをお届けする。昨今は、ソファやパーソナルチェアの張地としてブークレ生地の人気が継続しており、ミラノ・サローネでも多く散見されていたが、ここに来て、ポスト・ブークレと思われる糸の使用が見られた。それは昨年から注目されていたシェニールヤーン。モール糸もしくは毛虫糸とも呼ばれ、芯糸のまわりに飾り糸を絡ませた、毛羽のある意匠糸である。両者の根底にある表現は「ソフト感」。これは、糸や織り、素材、カラーにも共通するテーマである。特殊なジャガード織りによって凹凸感を表現する、リネンやコットン、アルパカなどナチュラルな素材の割合を増やし手触りや見た目を柔らかにする、など。この傾向はしばらく続きそうだ。 TORRI LANA社のブース展示。シェニールヤーンの張地のパーソナルチェア。しっとりとした手触り感を演出。 TORRI LANA社のテーマは「COZY」。展示の椅子の張地はコットンとポリエステルの組成でソフトと堅牢さを両立させた。 インドのGM FABRICS社では刺繍やジャガード、ベルベッドなど豊富な技術がある。シェニールヤーンを水玉のようなポイント柄に。リサイクルポリエステル78%コットン22%。 人気だったブークレ仕上げよりも、今年はベルベッド推しのVagatex社。カラーはキャラメル色など、茶系が人気だそうだ。スムーズな手触りはモヘアならでは。 Enzo Degli Angiuoni社。ベルベッド織りの凹凸でソフト感を表現。レーヨン41%コットン49%。 シンプルな市松模様が逆に新鮮。ウール100%。クッションカバーとしてアクセントに使いたい。Enzo Degli Angiuoni社。 ウール、アルパカ、リネンなどの「ナチュラル」 天然素材を使う「ナチュラル」の表現も目立った。2年前の展示ではカナパ(ヘンプ)を使った製品が多く見られたが、今年はそれほどでもなかった。聞くとカナパが高騰しているようで見直しを余儀なくされたようだ。 羊の放牧地の土壌や環境、健康維持など管理面でのトレーサビリティを証明する国際認証であるRWSを取得したウールを使用して製造されたトルコVANELLI社の製品。 細かいブークレと天然素材のアルパカで柔らかいエンボスを構成。アルパカ48%リネン52%ナイロン2%。Casalegno Tendaggi社。 屋内だけでなくアウトドア使用も可。カナパ51%ポリエステル48%。TORRI LANA社。 注目の色は、アースカラー、グリーン系、アイボリー・ホワイト系 カラートレンドに関しては、落ち着き、くすんだ暖色系のアースカラー、グリーン系、アイボリー・ホワイト系などが人気のようだ。これは、昨年のタイルの国際見本市「チェルサイエ」や、今年のミラノデザインウィークでも同様で、トーンを統一し、マテリアルもなるべく近しいもので構成して空間を調和させたり、静謐な空気感を求める傾向を反映していると思われる。 INSIDE、OUTOSIDEといった区分けで屋内用はリネンやコットンなどナチュラルな素材、屋外は得意のアクリルの先染め。屋内外トレンドカラーを用意したPARA社。 歩留まりの良いパターンやトレンドカラーも外さない堅実な製品構成のIMATEX社。日本の家具メーカーにも人気。ポリエステル42%レーヨン37%コットン11%リネン10%。 今年は風合いのあるピグメント・プリントを充実させたVANELLI社。グラデーションが美しい。ポリエステル68%リネン21%レーヨン11%。 屋外だけでなく船舶での使用も可能、難燃加工も施されてタフな条件でも耐えうるポリオレフィン100%の製品。POZZI ARTURO社。 アメリカ・ペンシルバニアから出展のMTL社。製造はアメリカ国内。カラフルで懐かしいパターンを多用。アップサイクル糸の使用など、サスティナブルな対応は積極的。 アクリルの先染めによるホワイトカラー。PARA社。定番のホワイトは純白からアイボリーに近い温かみのあるホワイトが人気だ。 同じくPARA社。会場ではグリーン、環境、健康といったテーマ展示も多くみられた。 ユニークな織りと高い技術で、アートやコントラクト業界に カーテン用としてのテキスタイルでは、今年も高度な技術に裏打ちされた製品と出会えた。経糸、緯糸の太さを変えて表面に柄や陰影を表現した多重構造のジャガード織りはアートの域に達したような表現で、実際アートパネルとしての活用を提案しているメーカーもあった。不燃・難燃加工、防汚加工、吸音効果などの機能性を高めて、テキスタイル産業としてコントラクト市場に挑戦しようという意欲も感じられた。 繊細でコンテンポラリーな表現をジャガードで実現。細めの経糸にして多種の緯糸で表現力を増した。多重構造の組織で織り上げた。ポリエステル80%リネン20%。LODETEX社。 ベルベッドの生地に花柄部分だけプリントして起毛を抑えた特殊プリント。レーヨン64%コットン36%。RATTI社。 多重構造の組織によって透け部分もある玉虫感を表現。見る角度によって光沢が変化する。ポリエステル55%リネン25%コットン20%。LODETEX社。 コットン生地にこれほどの細かい絵柄をプリントできるのは、さすがのRATTI社。このほか、人気のペイズリー柄など今年も楽しませてくれた。 世界の気候変動や経済不安、デジタルツールによる情報過多など何かとストレスを感じることが増えている。昨今のインテリア・トレンドはそこを受容するように家具のフォルムは丸みを帯びて、優しい木質感が求められ、ヒーリング的な要素も見受けられる。そういった意味では皮膚に近い感覚で触れられるテキスタイルの存在は注目すべきマテリアルの一つだろう。テキスタイルに特化した見本市は他国でも開催されているが、「PROPOSTE」は1、2日あれば見渡すことができる規模で、お喋り好きなイタリア人との会話も楽しめるフレンドリーな見本市。2026年も、5月5、6、7日の3日間の開催予定。是非一度、厳選されたテキスタイルのコレクションに触れてみては? 共有: クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます) X Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます) Facebook いいね:いいね 読み込み中… 関連